Japan Association for Medical Informatics

[3-L-2-PP8-3] 医療情報の利活用による医療安全向上へのとりくみに関する研究
---移植医療における免疫抑制剤の長期服用安全性について---

正司 浩規1,2, 大石 雅子2, 前田 育宏1, 武田 裕2 (1.大阪大学医学部附属病院 医療技術部 検査部門, 2.滋慶医療科学大学院大学)

目的 本邦では臓器提供が未だ少ないことから移植臓器の長期生着の重要性は極めて高い。1980年代より上市された免疫抑制剤シクロスポリン(CyA)、タクロリムス(Tac)による免疫抑制療法の発展に伴い短期成績は改善したが、長期的な生着率は必ずしも良好とは言えない。本研究では腎移植後からの免疫抑制剤の服用患者を対象とし、電子診療録に蓄積される医療情報を長期間にわたり収集し、臨床検査値への免疫抑制剤の長期的な影響について後方視的に解析し、移植医療の安全への貢献を目指す。

方法 ①データ抽出:2000年から2014年に大阪大学医学部附属病院にて腎移植を受け、CyA、Tacを服用している患者を対象とし、電子診療録から移植時期、入退院記録、薬歴、臨床検査値を網羅的に抽出し背景分析を行った。
②Base Lineの設定:退院日より2日以内の検査値をBase Lineに設定し、退院以降の検査値の増減の比率を算出した。今回は代表的な臨床検査項目である肝胆道系(AST,ALT,γ-GT,ALP,T-BiL,D-BiL)、腎機能系(Cre,eGFR)、脂質代謝系(T-CHO,TG)、糖代謝系(Glu,HbA1c)、栄養系(TP,ALB,ChE)、および白血球数を対象とし、移植後最大15年間の臨床検査値の変動を、CyA群、Tac群で比較し、重回帰分析を行った。

結果 対象となる腎移植患者は206名、男女比は116/90、年齢は43.7±12.8歳(20~72歳)、CyA服用群は67名、Tac服用群は139名であった。十分なデータ数を有する10年間の臨床検査値の増減比率を目的変数、性別、年齢、移植種別、薬剤種別、経過年数を説明変数とし重回帰分析の結果、移植種別に強い関連があった。そこで生体腎のみを層別解析したところTac群はCyA群と比較しγ-GTで高値、Cre、eGFR、T-CHOで低値を示し、薬剤種別と経過年数を乗じた交互作用を検討したところTac群で経過年数とともに有意にWBCが低下した。

考察 生体腎移植群の10年間の臨床検査値を解析したところ、γ-GTが肝機能変動に対して最も鋭敏に反応していると考えられた。また生体腎移植Tac服用群で年数経過に伴いより強い骨髄抑制が現れることが示唆された。