Japan Association for Medical Informatics

[3-L-2-PP8-4] ヘリコバクター・ピロリ抗体検査と血清ペプシノゲン検査による胃がんリスク層別化検診の医療経済効果の推定

齋藤 翔太1, 石川 卓2,3, 赤澤 宏平3 (1.新潟医療福祉大学, 2.新潟大学大学院医歯学総合研究科, 3.新潟大学医歯学総合病院)

2014年に改訂された胃がん検診ガイドラインでは従来の胃X線検査に加えて胃内視鏡検査が積極的な胃がん検診方法として推奨された。また、最近の疫学研究によってヘリコバクター・ピロリ菌感染の有無と血清ペプシノゲン検査による胃粘膜萎縮度から将来の胃がんのリスクを予測できることが明らかになった。それらを組み合わせて胃がん検診対象者を4つのリスク層に分割して胃内視鏡検査の頻度を変えるABC検診が全国各地で導入され始めている。本研究ではABC検診の延命効果と医療費抑制の両面から費用対効果の推定を行った。胃がん検診対象集団へ毎年胃内視鏡検査を行う検診方法に対して胃がんリスク層別化を考慮したABC検診の費用対効果を推定するため、マルコフモデルを構築した。マルコフモデルに投入するデータは文献レビューと新潟大学医歯学総合病院のカルテ情報から入手した。医療費支払い者の立場から費用は胃がん関連の直接医療費のみを考慮して生涯の期待生存年と期待費用を推定した。コホートシミュレーションの結果、40歳集団に対する胃内視鏡検診の期待費用と期待生存年が276,561円、25.50年であるのに対し、ABC検診は128,970円、25.55年であった。リスク層の構成比が異なる50歳集団、60歳集団の全てにおいてもABC 検診は生存年を延長しつつ、胃がん関連医療費を削減した。検診対象集団に対してリスク層別化検診を導入することによって従来と同じ程度の効果を維持しつつ、長期的な検診費用と胃がん関連医療費を半減できる可能性があることが示唆された。日本の胃がんの発症率は諸外国と比較して非常に高く、発症予防と検診による早期発見に力を注ぐべき消化器疾患の1つとされている。ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療による胃がんの発症予防とリスクの高い対象者へ集中的に精度の高いサーベイランスを行う検診方法の有用性が医療経済的な観点から示された。