Japan Association for Medical Informatics

[3-L-3-PP9-1] サーモグラフィによる意思表現が不自由な患者における情緒変化の把握:「ゆめ水族園」体験時の情緒評価

丁 憙勇1, 木戸 倫子1, 長尾 弘子2, 三原 明穂1, 本郷 干草2, 星田 徹2, 大野 ゆう子1 (1.大阪大学, 2.国立病院機構 奈良医療センター)

背景:「ゆめ水族園」とは,プロジェクタから海の生物のダイナミックな動きを音響効果とともに部屋に映写し,水族館に接する機会の少ない人たちに,豊かな感覚体験を届ける活動であり,保健医療機関でも導入されている.このようなイベントの体験において,意思表現が不自由な患者の情緒変化は,観察者による観察評価(表情や行動等の主観的評価)が主であった.しかし,その変化がポジティブな感情(楽しみや喜びなど)であるか,ネガティブな感情(ストレスや悲しみなど)であるかを区別することは非常に困難であり,その対象者を長期間ケアしている医療者・保育者のみが或る程度,推測することが限界であった.本研究では,感情表現が不自由な患者を対象に「ゆめ水族園」体験時に感情に変化が現れるか,現れた場合,その感情はポジティブかネガティブか識別可能な非侵襲非接触測定方法の提案を目的とした.
方法:成人の筋ジストロフィー患者4名と重症心身障害児・者4名を対象として「ゆめ水族園」開始前と体験時の顔表面温度分布の時系列変化をサーモグラフィで計測し,顔表面温度分布の変化を分析した.同時に心電図,心拍変動(HRV)の計測,付添の看護師・保育士による観察評価も行い,サーモグラフィによる温度変化との関係を分析した.
結果と考察:開始前に比べて体験時には全例において顔表面温度の分布に変化がみられ,特に唇と頬周辺にその差が明確であることが分かった.HRV変動も明らかであり,自律神経系に「ゆめ水族園」の刺激が影響を与えたことが確認できた.サーモグラフィによる情緒評価は,専門家の観察評価とも矛盾がなかった.今回提案した方法は普段行っている療育活動の際にも応用可能であり,患者の感情に合わせた活動プログラムを検討することが可能であると考えられる.