Japan Association for Medical Informatics

[3-L-3-PP9-4] 2型糖尿病患者に対するCGM (Continuous glucose monitoring)システムを用いた血糖値モニタリングアプリケーションの経済評価
− マルコフモデルを用いた医療費の推定 −

辻 真太朗1, 鈴木 哲平1, 石川 智基1, 森井 康博2, 谷川 琢海3, 小笠原 克彦1 (1.北海道大学大学院保健科学研究院, 2.北海道大学大学院保健科学院, 3.北海道科学大学 保健医療学部 診療放射線学科)

背景・目的
糖尿病の進行やその合併症の予防には厳格な血糖値の管理が重要であり,患者や医師等がCGM (Continuous glucose monitoring)システムと連携したスマートフォン等で血糖値をモニタリングするアプリケーション(以下,CGMアプリ)が近年開発されており,日本での導入が予定されている.本研究では,2型糖尿病でインスリン療法を施行している患者に対するCGMアプリの経済評価を行うことを目的とし,CGMアプリの併用の有無によるマルコフモデルを構築し医療費の推移を明らかにした.
対象・方法
マルコフモデルを構成する状態は,「インスリン療法」,「CGMアプリ併用のインスリン療法」,「糖尿病性腎症」,「心疾患」,「人工透析」,「死亡」とし,各状態間の移行確率(以下,確率)は学術論文等に基づき決定し,確率の計算にはR(ver. 3.0.2)を用いた.次に,各状態の医療費を国内の学術論文及び診療報酬等に基づき決定し,モデルの推定期間を20年,対象患者の人数を120万人とし, CGMアプリの併用の有無による医療費の推移を明らかにした.最後にCGMアプリの併用時の糖尿病性腎症への移行確率を±1%変動させて感度分析を行い医療費の増減を明らかにした.
結果・考察
インスリン療法にCGMアプリを併用することにより,5年目で最大約307億円の医療費を減少したが,12年目には約57億円増加し,20年目で約897億円増加した.感度分析では,糖尿病性腎症への移行確率が±1%変化することで医療費が最大約±20億円変化した.CGMアプリの併用12年後から医療費が増加した主な理由は,医療費全体に占めるCGMアプリ併用の費用の増加分が糖尿病性腎症等の総費用の減少分を上回ったためであり,合併症を予防していることを表していると考えられる.そこで今後は,CGMアプリの併用によって医療費の減少効果の可能性のあるインスリン投与量等の低減等の要因を検討し,医療費を減少させる期間がどの程度延長するかを明らかにする必要がある.