Japan Association for Medical Informatics

[4-A-2-JS10-1] 疲労研究プラットフォームとビッグデータ

片岡 洋祐1,2,3, 久米 慧嗣1,2,3 (1.理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター、細胞機能評価研究チーム, 2.理化学研究所CLST-JEOL連携センター、マルチモダル微細構造解析ユニット, 3.健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム、新規計測開発チーム)

わが国では国民の40%が6ヶ月以上断続的に続く疲労(慢性疲労)を感じているという。また、疲労・倦怠感は医療機関を受診する患者の主訴として痛みに続き2番目に多い。しかしながら、発熱や痛みなどに比べ、疲労病態は未だ十分解明されておらず、その効果的な予防・治療法の開発も満足できるほど進んでいるとは言い難い。

われわれは、疲労病態モデル動物を用いた実験と、患者や健常者を対象としたヒト試験からなる疲労研究プラットフォームを構築してきた。こうした一連の研究から、疲労病態時には細胞におけるエネルギー代謝異常と、低下したエネルギー代謝を補うために形成される新たな代謝の流れ(疲労代謝)によって組織炎症が誘発されることがわかってきた。さらに、中枢神経組織においても炎症(神経炎症)が引き起こされ、疲労感や抑うつ感が惹起されること、さらに自律神経機能異常を伴うことも明らかとなりつつある。

本講演では、まず、疲労研究プラットフォームにおける動物実験でのイメージングビッグデータの取得と応用について紹介する。特に、高解像度の電子顕微鏡画像をタイリング技術で数百枚から数千枚並べることで、数mmにもおよぶ広範囲の組織の電子顕微鏡画像を取得する技術について説明し、その意義についても述べたい。また、ヒトを対象とした研究では、環境音楽がヒトの主観的疲労感や自律神経機能へ与える影響について調査した結果を紹介したい。特に、環境音楽を聴取したときの自律神経機能指標の変化を、疲労・癒し・眠気・憂鬱などの主観的気分測定から予測できる可能性について議論する。近年、ヒトの心理データがスマートフォンなどを通して簡便に取得されることで、心理データのビッグデータ化が実現するようになってきた。こうした技術は疲労研究のみならず、日常生活でのストレス対策や働き方の改善策の構築などにも利用されつつある。