Japan Association for Medical Informatics

[4-C-1-PS15-2] 我が国における精神科遠隔医療の展望と課題

岸本 泰士郎 (慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)

遠隔で行う精神医療はtele-psychiatryと呼ばれる。精神科診療は互いの顔を見ながらの面接が大きな比重を占めるため、テレビ電話を用いたD to P(医師患者間)の遠隔医療が応用しやすい診療領域である。実際、海外では遠隔医療を利用した治験や臨床が普及し、保険診療として認められている国も少なくない。WHOの調査でも、放射線科・病理・皮膚科と並び、精神科は遠隔医療の主要な領域とみなされている (2010)。
本邦でも、平成27年8月10日の厚生労働省事務連絡や9 月15 日の厚生労働省基準局長の「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66 条の8 第1 項および第66 条の10 第3 項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」を受けて、自費診療や産業保険といった枠組みにおいて、遠隔医療が行われつつある。高齢化、医師の偏在、引きこもりなど多くの問題を抱える日本で遠隔精神医療は多くの問題解決のための重要なツールとなり得る。発展が望まれる一方で、普及に際してその診断精度、治療効果、安全性、法的整備など検討すべき点も多い。
このような社会要請を背景に、2016年12月より日本医療研究開発機構(AMED)の委託研究として「遠隔精神科医療の臨床研究エビデンスの蓄積を通じたガイドライン策定とデータ利活用に向けたデータベース構築」が慶應義塾大学を中心に開始された。J-INTEREST:Japanese Initiative for Diagnosis and Treatment Evaluation Research in Telepsychiatryと名付けられたこの研究では、以下1)から3)の3 つを主要な目的としている。1)精神科診療場面における遠隔診療の診断信頼性、有効性、安全性、利用者満足度について4 つの臨床研究を通じて検討する。2)遠隔医療の長所を生かした臨床研究のデータベースの在り方について検討し、モデルを構築・運用する。3)前述の1)、2)によって得られた知見を通じて、暫定版ガイドラインを策定する。発表ではJ-INTERESTの紹介を中心に、遠隔精神医療の我が国における展望と課題について論じたい。