一般社団法人 日本医療情報学会

[4-E-1-PS16-3] 医療の情報化における法的課題

米村 滋人 (東京大学大学院法学政治学研究科)

医療情報の収集、共有、活用に際しては、さまざまな場面で法的な問題が発生する。本講演では、そのうちのいくつかを取り上げる形で、医療情報利活用の現実的課題につき整理したい。

医療情報の収集に関しては、法的な問題は少ない。少なくとも、通常の医療過程で情報収集自体は当然に必要とされるものであり、その量と質を高めることは医療の基本的目的にも適合するものである。

他方で、医療情報の共有と利活用については注意すべき点が複数存在する。医療情報にアクセスする際の電子認証については、民間の医療機関における運用については特段の制約はないものの、行政機関での運用については、「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(通称:行政手続オンライン化法)」により、すべての行政機関で統一した技術水準でのシステム構築が求められており、同様の統一的な仕組みが独立行政法人についても適用されている。このため、現状では、医療情報の利活用拡大という目的があっても、医療情報にアクセスする際の認証レベルを容易に変更できない状況がある。

また、医療情報利活用の過程については個人情報保護法による規制が及ぶ可能性がある。単一の医療機関のみで情報を利用する場合には問題が少ないが、それを他の医療機関との間で共有することは個人情報の第三者提供に当たる可能性があり、周知の通り一定の規制が及ぶ。本年4月に成立した次世代医療基盤法は、匿名加工を条件に医療情報の集約化と利活用を推進することを目的とするが、この仕組みがこの場面で有用なものとなるかは、今後の運用に依存する。

以上の問題は必ずしも法律自体に起因するものではなく、運用上の問題に位置づけられるが、種々の行政的判断の中で法律の柔軟な運用が困難になる側面もある。医療情報の利活用促進のための制度的な基盤整備につき、検討の必要があろう。