Japan Association for Medical Informatics

[4-E-2-OP28-5] モンテカルロシミュレーションによる追跡率とpaired-t 検定結果の関連性の解析

山下 暁士1, 酒井 忠博2,3, 舩田 千秋1, 小林 大介1, 大山 慎太郎1, 山下 佳子1, 佐藤 淳一1, 朝田 委津子1, 平岩 秀樹3, 濱田 恭3, 大野 洋平3, 宮本 健太郎3, 土谷 早穂3, 白鳥 義宗1 (1.名古屋大学医学部附属病院 メディカルITセンター, 2.トヨタ記念病院 整形外科, 3.名古屋大学大学院医学系研究科 整形外科学)

【目的】手術の成績を術前後のアウトカムの差で比較する研究がよく見受けられる。この研究手法に対し、追跡率がどの程度検定の結果をゆがませるのかについて、コンピュータシミュレーションを用い検討すること。
【方法】Excel VBAを用いて以下のシミュレーションを行った。
1. 症例は100例。術前と術後の調子を表す測定不能な真のスコア(仮に真スコアとする)があると仮定。真スコアは正規分布に従ったランダムな値をとるとした。
2. 真のスコアと相関する測定可能なスコア(仮に測定スコア)があり、それを術前と術後に測定したと仮定した。今回は両スコア間の相関係数を0.6と仮定して計算した。
3. 手術は全く真スコアに影響を与えないとした。つまり、術前後で真スコアの従う分布は同じであると仮定した。
4. 術前後の真スコア変化量の悪い順に追跡できなくなると仮定した。最終的な追跡率を100%、90%、80%、70%、60%とした場合それぞれにおいて、追跡できた症例に対して、術前後の測定スコアを用いてpaired-t testを行い、有意水準を5%として統計学的に有意かどうかを検定した。
5. 上記を1万回行い、各最終追跡率において、術前後のスコアの差が統計学的に有意となった確率を算出した。
6. 上記を3回繰り返し、有意になった確率の範囲を求めた。
【結果】最終的な追跡率が100%、90%、80%、70%、60%であった場合のそれぞれにおいて、術前後のスコアの差が有意となった確率は4.9-5.2%、18.3-19.1%、50.2-51.0%、74.8-75.5%、88.8-89.3%であった。
【結論】スコアの術前後の変化が追跡の可否に影響を与える場合、追跡不能例があるだけで、意味のない手術の術前後のアウトカムの差が有意になる確率が、危険率に比べて何倍も高くなってしまうことが確認された。この結果は、術前後のアウトカムを用いた研究において、追跡率がかなり高くなければ結果はゆがんでいる可能性が否定できないということを示唆するものである。