Japan Association for Medical Informatics

[4-I-1-CS8-1] 四肢切断後の幻肢痛に対するVirtual Realityを用いた疼痛治療

住谷 昌彦1, 大住 倫弘2 (1.東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部, 2.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

四肢切断後の患者の80%以上は失った四肢が存在するような錯覚(幻肢)を感じ、その幻肢に痛みを伴うことが少なくない。幻肢痛の発症頻度は四肢切断患者の50-80%とされ、その長期予後は報告によって異なるものの大部分の患者では数年を経ても幻肢痛を感じておりQOLの低下が著しい。
四肢の運動は体性感覚と視覚情報を基にして四肢の位置や関節角度を認識し、運動企図に続く運動指令の出力によって四肢運動が実行される。その後、四肢の感覚情報が脳へとフィードバックされる。このような感覚系と運動系におけるループ状の情報伝達の繰り返しを知覚-運動協応と呼ぶ。幻肢痛を代表とする神経障害性疼痛では、患肢における知覚-運動協応の破綻が疼痛の発症メカニズムであると考えられている。
我々は両手の協調運動は一つの運動パターンに収束していくことを利用して、健肢運動を評価することによって幻肢の随意運動とその運動量を定量的に評価する手法を開発し、幻肢の運動表象と痛みの強さが相関することを明らかにした。さらに、ヒトは体性感覚と視覚を用いて四肢情報を認識しており、四肢に関する正しい視覚情報(映像)を入力することが知覚-運動ループの協応関係を再統合するためには最も効率的な方法であることが知られる。我々は幻肢痛の治療として鏡療法を行い、近年はvirtual-reality(VR:仮想現実)を用いた幻肢の“可視化”を通じた幻肢痛の神経リハビリテーション治療を行っている。実在空間での健肢とVR空間での幻肢を、同一の運動内容を実施させることによって、左右上肢からの感覚情報は脳内で統合されて一つの感覚表象を形成し運動系へと情報伝達が行われ、幻肢の運動表象が再構築される結果、幻肢の知覚-運動協応が再統合され幻肢痛が緩和すると考えられる。
幻肢の運動表象と幻肢痛の関係性について認知神経科学の観点から考察する。
謝辞
東京大学 國吉康夫教授