Japan Association for Medical Informatics

[2-E-2-5] ICTを使った地域医療情報ネットワークを健全に発展、継続運用するためには

松本 武浩 (長崎大学病院 医療情報部 准教授:長崎 あじさいネット)

 ICTを使った地域医療情報ネットワーク(以下 ICTネット)は全国に広がりつつある。医療が病院完結型から地域完結型へ、さらに地域包括ケアシステムへと変わっていく中で、医療品質の維持、向上のためには医療機関間、医療介護間の密な情報共有が必要であり、ICTネットの日常利用は必須である。しかし多くのICTネットが、導入後の利用施設拡大や継続運用面で苦慮している。補助金を使って構築したものが多く、継続費用の捻出が容易でないからである。一方、医療関係者が前述のような医療環境の変化を十分に認識していなければ、ICTネットの必要性は理解されない。これが利用施設拡大に苦慮する主因である。長崎県のあじさいネットは今年で14年目となるが、順調に運用され参加施設も毎年着実に増加している。費用に関する特徴は、2004年の運用開始から5年目までは一切補助金を受けておらず、ID-LinkやHuman Bridgeを使った診療情報共有機能については、今でも会費のみで運営している点である。一方、他の地域同様、あじさいネットの機能強化のために地域医療再生基金等の補助は受けているが、継続運用に影響が無いよう3通りの方法で利用している。まず1つ目は1回限りの予算で完結するものであり、新たな参加施設に対するGWサーバの導入補助(半額補助)やポータルサイトの改造等現行システムの機能強化等である。2つ目は更新後の費用負担を確約した上での導入であり、長崎県の重要課題である離島医療に対する救急画像診断支援システム等であり、これは県が更新する方針で導入している。3つ目は県全域、全職種に有益な機能を構築し頻回に利用されるサービスへと発展させ、利用者負担とするものである。TV会議がこれに該当する。もちろん、行政の支援や診療報酬での評価は有難いが、いずれも不確実であるので、あくまでも上記3方法の補完方法として期待している。このように利用施設や利用者を増やしていく上で、また3つ目の方法を成功させる上でも、医療従事者はもちろん患者や一般県民に対する、現状や近未来の医療・介護の姿とこのようなネット利用の必要性に対する情報提供と正しい理解が必要であり、関係者の熱心な啓蒙活動が欠かせない。逆にそれがうまく進められれば理想的な地域医療構想の実現や有効有益な地域包括ケアシステムの早期構築にも大きく貢献するものと思われる。