Japan Association for Medical Informatics

[3-F-1-3] 糖尿病分野でのICD-11構築の経緯と今後に向けた課題

安田 和基 (国立国際医療研究センター)

 糖尿病は、高血糖を主徴とする様々な成因からなる病態であり、また多岐にわたる急性・慢性臓器合併症を生じることも特徴である。
 ICD-11では、糖尿病全体を1型(Type1)、2型(Type2)、Malnutrition-related、other specifiedに分け、それとacute complicationが大項目となっている。特筆すべきことに、1型糖尿病の中に、日本の研究者が主導的役割を果たして確立された、SPIDDM(slowly progressive IDM)とFulminant type 1 diabetes(劇症1型糖尿病)の2つの亜病型が、termとして新たに採用された。
 ICD-10から最も大きく変わったのは慢性合併症である。ICD-11では糖尿病、合併症を別々にコードし、その組み合わせで症例を表現する。しかし合併症によりその所属する臓器にての章立てや小分類が全く異なる。また腎症は、臨床的にも疾患概念について昨今大きな議論があり、新たに提唱されたdiabetic kidney diseaseという概念が、termとして認められた。
 糖尿病を通じて明らかとなったICD-11全体に関わる課題も少なくない。たとえば病因分類と臨床像による分類の混在や、複数の親疾患(double parents)をもつ病態の扱いなどがある。腫瘍性疾患は、機能的観点から分類されていないため、糖代謝異常をともなう内分泌腫瘍の扱いが混乱している。遺伝子異常による疾患についても、臨床診断と遺伝子診断(確定診断)の問題、複数の臓器を障害する疾患、同一遺伝子異常による異なる表現型、異常が未同定の疾患などの課題がある。今後の新たな疾患研究の成果の取り込みも課題となろう。
 今後の運用においては、ICD-11の基本理念や構造と、それぞれの疾患特性とを理解して進めることが必要である。