一般社団法人 日本医療情報学会

[3-F-1-4] 伝統医学分野でのICD-11構築の経緯とわが国への適用に向けた課題

星野 卓之 (北里大学東洋医学総合研究所)

 新しいICD-11では補完代替医療の実状を把握するべく、伝統医学章が新設された。その第一弾として東アジアで西洋医学と医療制度を二分し、欧米にも比較的普及している東洋医学が選ばれた。伝統医学章には第26章が割り当てられ、そのModule 1として収載され、伝統医学分類名には(TM1)という略号が付されることとなった。
 伝統医学章は、伝統医学的疾病(disorders)と伝統医学的証(patterns)の2つに分けられる。伝統医学的疾病は西洋医学の病名に近い疾病単位で中国・韓国からの提案が協議のうえ収載された。また「証」はある時点における患者の正確な臨床像を示す一まとまりの徴候、症状、所見(患者の体質を含む)であり、直接治療の指示となるために日本漢方では特に重視されてきた。よって日本からの提案は伝統医学的証について、寒熱・虚実、気血水、六経、経絡、腎虚の約40項目に集約された。日本では西洋医学のもとで一本化された医療制度が確立しているため、西洋医学病名に伝統医学的証を統合して用いることが想定されている(integrated coding)が、研究目的では東洋医学単独のコーディングが医師・薬剤師・鍼灸師などによりなされるものと想定される。
 これまで日本漢方臨床の公的なデータはほとんどなかったが、診療記録の整理や研究の目的で伝統医学コードが活用されれば、日本独自の医療環境について国内外で理解を得る根拠が形成されていくことになる。また多施設・国際間比較にも有用であると考えられる。海外では安全性評価や保険給付、医療経済学的調査に供される見込みであり、日本においても伝統医学章を活かす独創的なアイディアが求められている。今後国際間での情報交換は毎年WHO-FICの伝統医学レファレンスグループ(TMRG)で行う予定である。