Japan Association for Medical Informatics

[4-B-1-1] 医療情報のPublic Use File提供にむけた検討

木村 映善 (愛媛大学大学院医学系研究科)

 次世代医療基盤法の施行により,認定事業者による医療情報収集および医療分野の研究開発に資するような匿名加工医療情報の作成が可能になった.レセプト情報・特定健診等情報の提供に関しても,公益性の高いものにたいしてNDBデータの民間提供の試みが進められており,NDBオープンデータも版を重ねるにつれて収録項目や件数も拡大している.また,国が実施した統計調査データについても,公益性の高い研究にかんして一般の研究者も利用可能にする改正統計法が成立している.以上のように「公益性」のある二次利用への情報提供の機会が拡大している.
 しかし,医療分野におけるPublic Use File(PUF)の提供の試みは進んでいない.先述した試みにみられるのは,審査を通して提供される「事実上の匿名性」が施されたミクロデータあるいはオーダメイド集計である. 「絶対的な匿名性」を確保すると,データの品質が著しく低下するものとして,我が国ではデータ提供の形態検討から外される傾向がある.しかし,PUFを利用した分析はただちにエビデンスに結びつかないものの,下記の点において期待がかけられる.(1)今後の医療情報の対象範囲の拡大に伴う医療情報モデルの複雑化により,標準医療情報モデルに従って記述されたデータに習熟する必要があるが,PUFにより事前にプロトタイプ構築を始められること,(2)変数選択による影響を確認できるため,Scientific Use File提供時の審査やリスク評価のプロセスを迅速化させること, (3)探索的検討やデータマイニング,機械学習等の多くの変数を利用する解析・開発に供することができること,である.本論では医療情報分野におけるPUFの提供にむけた課題の提示を行う.