Japan Association for Medical Informatics

[2-A-2] 診療データは溜まるのか、貯めるのか

中島 直樹1 (1. 九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター)

information revolution, data derived medical research, PHR, HL7FHIR, ICD11

「令和」を迎えた今日は、情報革命期といわれる。狩猟社会から農耕社会へ移行した「農業革命」、工業社会へ移行した「産業革命」に続く、人類史で3回目の社会の大変革である。
 この革命期に医療情報学に与えられた使命は、蓄積した保健医療データの2次利活用である。これまでは「溜まっていた」データを「貯めて」使う時代になる。臨床研究に用いれば、データ駆動型臨床研究、あるいはビッグデータ解析とも呼ばれる。人工知能開発にも直結し、情報革命社会そのものへ影響するため、適正な研究実施が求められる。
 データ駆動型臨床研究では前向き臨床研究に比較し、データ規模が大きい、コストが低い、リアルタイム性が高いなどが特徴である。その一方「溜まった」データは、1) データ品質が低い、2) 必要なデータ項目が無い、3) バイアスが大きい、4) 同意取得が難しい、などが課題であり、いずれもが研究不成立の原因となる。
 DPC、NDB、MID-NETなどの国家的事業や各種AMED研究により、これら課題への対策も講じられた。
 まず1) データ品質は慎重なバリデーションが有効なことが証明された。業務で品質は低下し続けるため、品質管理作業は継続せねばならない。2) データ項目の課題では、HISに存在しない項目を高精度に推測することも行われる。例えばHISにない「真の病態」を保険病名や検査結果、処方データなどから一定の精度で抽出するePhenotyping手法が確立されつつある。3) バイアスは、ネステッドケースコントロール研究などの研究デザインで対応する。4) 倫理課題は、医学倫理指針や次世代医療基盤法などに則る。
 このように、データ駆動型研究でも課題の多くを克服することが可能であり、前向き臨床研究と相補的に、保健医療の車の両輪として推進するべきである。医療情報学者はこれらの課題とその対策手法を熟知し、駆使し、貢献することが望まれる。一方で、データ2次利用を前提としたデータを「貯める」HISの開発も急務である。