[2-E-2-03] FHIR標準化プロセスにみる標準化プロセスのベストプラクティスの模索
標準化プロセスの難しさは、様々な背景・視点を持つものが一同に会し、利用場面や適用範囲、採用する用語及び基準等について一定程度合意しつつ、その規格の普及に努めるという、負荷の高い知的作業を長期間にわたって取り組まなければならないことにある。実際、限られた者による献身的な貢献に支えられている活動が多い様に思われる。標準化プロセスをより効率的に進めて成功させるにはどのようなアプローチがよいのか、活動に勢いがあるFHIRの策定プロセスから何かを学びたい。FHIRの開発プロセスは米国HL7協会のBallot Processを採用している。ただ、通常のBallot Submission Sheetにカスタマイズが加えられ、議論を追跡するTrackerシステムと連動した内容が追加されている。FHIRの仕様はバージョン管理システム下にXML文書で管理されており、人間が可読可能なHTML文書への自動生成がなされることにより、仕様の機械可読可能な定義と人間が読む定義書の一元管理が実現されている。仕様の新旧の差分が自動的に生成され、仕様変更を追跡しやすくなっている。結果として膨大な仕様の管理と参加者への情報共有の為の管理労力が大幅に削減されている。FHIRは当初からオープンソースで仕様書が公開されている。従ってドラフト段階から技術者や研究者による概念実証の為の実装を促進し、実装してはじめて得られる知見が早々にフィードバックされ、実際的な仕様の策定と不具合発見による後戻りを最小化することに貢献している。そして、HL7 CDAの既存の資産、外部の標準統制用語集、REST等のこなれてきたモダンアーキテクチャ、80%程度のシステムで実際に使われているものを優先的に収録する等のプラグマティックな「割り切り」と車輪の再発明を回避してきた。このような情報処理技術の進歩を活用したプロジェクトマネジメントの進歩と既存の資産の尊重・再利用の姿勢は我々における標準化策定プロセスにとって大いに参考になるところがあると思われる。