一般社団法人 日本医療情報学会

[2-I-2-03] 人工知能への患者の信頼を検討する上でのいくつかのポイント

中谷内 一也1 (1. 同志社大学 心理学部)

心理学における信頼研究の嚆矢は1950年代に遡ることができるが、より盛んになってきたのが1990年代以降である。この間、一貫して検討されてきたのが「何が信頼を導くのか」、「信頼を構成する要素は何か」という問題であった。
信頼の定義は多様であるが、最も共通して含まれる要素が、信頼する側の信頼される側に対する“willingness to be vulnerable”である。すなわち、“相手の行為次第ではひどい目にあうリスクがある状況にありながら、ひどい目にあうことはなく利益が得られるだろうと期待し、相手に何かを委ねようとする心理的状態”が信頼には含まれるということである。逆にいうと、ひどい目にあう不確実性のない状態で、相手のことを優れていると評価できても、それは信頼ではない。
さて、信頼の具体的な形態には様々なものがあるが、患者がある医師の治療を受ける状況は、信頼が重要な役割を果たす典型的な関係といえるだろう。その関係に、今、人工知能(AI)が入ってこようとしている。信頼抜きでは医療は困難になるのであれば、AIへの信頼の問題をおざなりにしたままでは医療現場へのAIの導入も混乱を引き起こすことになるだろう。では、患者のAIへの信頼はどのように決まるのだろうか。本発表では、この問題を検討する。具体的には「そもそも、信頼は一般的に何によって決まるのか」についての知見を紹介した上で、AIへの信頼の特殊性を検証した研究例を材料にして、この問題にアプローチする上でのいくつかのポイントを議論したい。