Japan Association for Medical Informatics

[3-A-4-07] IoT・AIによる認知症予防システムの研究開発

酒谷 薫1 (1. 東京大学大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻)

Dementia, Deep Learning, Mild cognitive impairment (MCI), Vascular Cognitive Impairment (VCI), IoT-POCT

高齢化に伴い、認知症は急増し社会問題化している。しかし、現時点では認知症の分子レベルでの治療は困難であり、発症予防に重点が置かれるようになった。本研究では、認知症の発症には生活習慣病が原因になっていることに着目した。すなわち、生活習慣病による動脈硬化は、虚血性心疾患や脳血管障害だけでなく、血管性認知障害(VCI)として認知症の発症の引き金になっている。VCIは血管性認知症だけでなくアルツハイマー病の発症にも関与し、軽度認知障害(MCI)から重度認知症に至る幅広い認知障害において重要な役割を果たしている。我々は、これまで認知症の診断に利用されなかった健康診断の一般血液生化学検査を活用し、認知障害のリスク判定法を開発した。すなわち、一般血液生化学検査データはVCIの原因となる生活習慣病や代謝障害を反映しており、この血液データに基づいて認知障害を推定する予測アルゴリズムを構築した。血液データと認知障害の間にある複雑な非線形的関係を解析し、認知障害を予測するために、人工知能(AI)のアルゴリズムである深層学習を応用した。本法の特徴として次のことあげられる。
1) 従来のアミロイドβなどを検出する方法とは全く異なったアプローチである。2) 健診に用いる血液検査データを使用するので、新たな採血を必要とせずスマートフォンを用いて個人的に認知症のリスク判定を行うことが可能である。 3) 認知障害の原因となる全身状態の異常を血液検査により特定できるので、患者個別の状態に適した運動食事療法や各種非薬事療法を組み合わせたオーダーメイドの介入・治療が可能となる。
さらに、IoT化した健康管理システム(血圧計、体重計、体脂肪計、脳機能(NIRS);IoT-POCT)を医療施設外(スポーツジム、職場など)に設置し、各個人の健康履歴(PHR)を構築し、日常生活の中で健康管理を行った。将来的には年1回の健診データのAI解析により認知症リスクを検出し、健康目標を設定する。さらに、IoT-POCTのPHRによる健康評価を組み合わせることにより、患者個別の状態に応じた医療施設外での健康管理、疾病予防を行うことが可能となる。このようなIoT/AIを活用した健康管理システムは、治療効果を上げるとともに医療のプロセス改革を推進し、医師、医療現場の負担軽減を実現することが期待される。