[4-A-2-04] 精神医療におけるAI活用の経験から:その展望と課題
機械学習やウェアラブルデバイスの広がりと共に、精神医療においてもその応用が試みられてきている。しかし、その現状は既存の臨床尺度と得られた生体情報との単純相関の報告(すでに学術論文では却下されはじめている)や、“ストレスの見える化”と称した検証や根拠の不十分な民間サービスの話題先行での提供がその大半と言わざるを得ない。我々も、これまでうつ病患者に対する心拍変動解析や音声病態分析による診断精度の検証を行ってきたが、そこで感じた問題意識は少なくない。さらに治療応用となると遥かに道は遠い中、我々はひとつの試みを行った。現状のうつ病治療現場の抱える課題のひとつに、事実上薬物療法以外の心理的介入が許されない医療制度上の枠組みが限界として挙げられる。例えば、うつ病標準治療のひとつである、不適応的な思考や行動の修正を試みる認知行動療法(CBT)は医療保険適応となったものの、その運用は残念ながら形骸化している。諸外国では、CBTをeラーニングで自習するインターネットCBT(iCBT)に期待が集まっている。しかし、効能に対する成果報告の多さに比して、実利用は広がっていない。その理由として、現在のiCBTの効果不足や高い脱落が指摘される。近年、その問題を克服すべく自然言語処理(NLP)技術をiCBTに搭載したAI-iCBTが開発された。これは、iCBTエクササイズ中に、入力内容がNLP処理されることで自動的に出現する、1) 共感的なメッセージや2) 不適切なエクササイズに対する助言の機能を有する。AI-iCBTの抗うつ効果に関して、 AIの有無以外は同スペックのiCBTsと待機群の3群間無作為化比較試験を行った結果、AI型だけに有意な重症うつ病状態の改善効果を認め、また参加率でもAI型が非AI型を上回るという結果がper protocol解析で得られた。我々の知る限り、このようなAI機能有無 の無作為化による効果検証ははじめてであり、この経験も踏まえた上で、精神医療におけるAI活用の展望と課題を考察する。