Japan Association for Medical Informatics

[4-A-3] 医療情報保護の本質を考える

石川 広己1、向井 治紀2、山本 隆一3、山本 龍彦4、迫井 正深5 (1. 日本医師会、2. 内閣官房、3. 医療情報システム開発センター、4. 慶應義塾大学大学院法務研究科、5. 厚生労働省)

 医療界において、患者の情報を保護する、プライバシーに配慮することは当然のことである。しかし、それらの情報を研究、分析することで医療・医学の発展に寄与することも当然のことである。
 ところが、昨今、情報が電子化され、これまでとは全く異なる規模で分析できるようになり、また、必ずしも医療に携わっていない者も情報に触れることができるようになっている。そのこと自体を否定はしないが、そうなると顕在化するのが医療情報に対する各人の捉え方の違いである。
 過去、ヨーロッパにおいては優生思想の元、権力による差別や排除・粛清をするような悲しい歴史が存在した。その際、個人の思想や病歴まで含めた個人情報が権力者に集められ、人間を振り分けるために活用された歴史がある。このようは背景や反省があるからこそ、EUのGDPRは厳格な規定となり、個人情報を権力であっても容易には集められない。
 翻って、日本において、そのようなことがなかったかと言えば、旧優生保護法によって、リプロダク権の侵害とも言える優生手術が行われた。同法は不良な子孫の出生を防止するという目的をもって1996年まで存在した。では、不良な子孫を出生しそうな者はどのように把握されたのであろうか。当時、病歴という機微な個人情報がどのように扱われていたのであろうか。
 本学術大会において、筆者は過去数年に亘り、個人情報保護に係るセッションを開催させてもらっているが、医療の情報を扱う、そのあり方を考える医療情報学会でこの議論を繰り返してきた趣旨はここにある。
 今回は、これらを踏まえて、より踏み込んだ医療に関わる個人情報、プライバシーの保護のあり方を議論したい。もちろん、哲学的・抽象的な話に終始するのではなく、それらを保護するツールとなり得る医療等IDやそれらの情報を流通させるためのネットワークのあり方など、具体的な取り組み、進め方も識者を交えて方向性を見出したい。