一般社団法人 日本医療情報学会

[2-F-1-03] がんゲノム医療の現状と課題

*吉田 輝彦1 (1. 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT))

Cancer genome medicine, Real world data, Cancer genome profiling test


1980年代初頭、がん研究に「分子生物学」が急速に浸透していった頃の興奮と期待を今でもいきいきと思い出す。約40年かけて進化する中で、個々の研究成果は随時、医療の現場に届けられていたが、2010年代に入ると、先進諸国においては、がんの体細胞遺伝子変異のプロファイリングが標準治療に取入れられるようになった。我が国におけるその基本計画書は2017年6月27日、厚労省が公開したがんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会報告書である。複数の国や企業がゲノム医療のReal World Dataの囲い込みを強力に進める中、我が国は、国民皆保険の強みを活かして、新たな時代の第一線に一挙に到達しようとしている。目的としては、既に人体に投与できる薬剤が存在する場合に、様々な評価療養の仕組みを最大活用する個別化医療のみならず、そもそも薬が無いがんに対する本態解明と新たな創薬の入り口部分も視野に入れている。
その構想の要は、全国のがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院のネットワークによる「段階的な」ゲノム医療実装と、日本人のがんゲノム情報・臨床情報を集積・保管・活用するための仕組み「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT)の整備である。中核拠点病院等連絡会議の5つのワーキンググループが設置されたのが2018年5月、C-CATの正式な発足が同年6月であるから、我が国は実働約1年間という驚異的な速度でゲノム医療の実臨床への導入を開始した。
この過程を通して、保健診療の枠組みの中に、データシェアリングをはじめとする、厳密には個人の診療の枠を超えた要素を組み込むための、我が国における標準的な方式が作られつつあると言えるだろう。がん医療の最先端において生じている、この保健医療への新たな期待は、全ゲノム解析時代を迎え、難病・希少疾患をはじめとする他疾患領域にも拡がっていくと思われる。