一般社団法人 日本医療情報学会

[5-D-1-02] 医療機関におけるHER-SYS導入上の課題

*堀 成美1 (1. 国立国際医療研究センター)

confidentiality, surveillance, governance


日本の感染症のトレンド把握は、まず医師が届出用紙を自治体や保健所のホームページからダウンロードし、記載後に保健所にFAX送信するところからはじまる。保健所が外部から閉ざされた仕組みであるNESIDに入力し、自治体の感染症情報センターがデータークリーニングを行い、最終的に統計情報として公開されている。個人情報漏洩リスクを小さくし、情報精度を上げる工夫はあるものの、リアルタイム性に欠け、研究者等が広くデータを活用するような構造にはなっていない。
2020年5月末から、新型コロナウイルス感染症のみをインターネット画面から入力するHER-SYSが新設され、準備ができた自治体や医療機関から順次切り替えるよう厚生労働省から事務連絡が行われた。目的として現場の負担軽減、情報の迅速性・利便性等が挙げられている。負担軽減と迅速性のためには、データの出発点である医療機関がこの入力作業をする必要があるが、困難な場合は従来どおり保健所にFAXで届出を行ってもよいとされている。もともと外部インターネットアクセスを制限している医療機関、個人特定可能な情報をインターネットに書き込むことじたい承認が得られない医療機関、また入力する時間やそのための人員が確保できない医療機関などでは導入は進んでいない。
昨今、臨床研究や疫学研究においても個人情報の取り扱いの基準や運用上の法やルールの整備が進み、医療機関においても組織ガバナンスが求められている。今後、他の感染症を含めた全体のサーベイランスシステムがデジタル化していくと思われるが、広く活用されるためには、多様な臨床の現場において安全性が担保されるため、また施設内での承認を得るために必要な説明書類・根拠資料などが提供されること、組織全体の支援としてデータ管理者・データ保護者配置のための人権費の確保、従事者の質の向上のためのオンライン研修等の普及が課題である。