[5-D-1-05] 感染症対策に関する疫学研究と倫理指針
research ethics, parsonal information, informed consent
本報告では感染症対策に関する疫学研究の課題について、現行の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(以下、医学系指針)に即して整理を行う。感染症対策に関する疫学研究としては、主に感染症対策として収集された医療情報を二次利用する場合と、当初から研究目的でデータの収集等を行う場合がある。医学系指針は、いずれの場合も広範な例外を認めているが、例外に関する解釈は多様であり、全国的にも統一した運用は行われていない。そこで今回は、特に3点に絞って運用上の課題を指摘しておきたい。
1点目は、「感染症対策としての情報収集」の範囲をどこまで認めるか、という問題である。一般的に医療と研究の間にはグレーゾーンがあり、通常の医療現場でもどこまでが診療目的でどこからが研究目的かの線引きは難しい。この境界はそもそも「目の前の患者のため」を超えた公衆衛生目的になるとさらに複雑になる。2点目は、研究として実施する場合の同意の問題である。医学系指針では同意取得困難な場合には、既存の生体試料や診療情報の利用に関する同意免除(オプトアウトでの実施)を認めており、感染症対策に関する研究もこの規定に依拠して実施されうる。しかし、同意取得困難の判断は研究機関によって異なっており、多施設共同研究の実施の障壁となることが少なくない。3点目は、事後的な倫理審査という仕組みである。これはパンデミックや災害などの緊急時に倫理審査委員会の承認を待つことなく、研究機関の長の許可を持って研究を開始し、事後的に審査を受けるというものである。研究のスムーズな開始を担保するうえでは重要な規定であるが、その一方で事後審査での指摘事項への対応をどうするかという難しい問題が残る。以上3点に関して、本報告では現状と課題を整理したい。