一般社団法人 日本医療情報学会

[2-E-2-02] 電子カルテの移行に伴うユーザ満足度の時間的変化

*斎藤 寛彰1、日髙 一義1、杉原 太郎1、小原 まみ子2、関根 広介2、新倉 康弘2、亀田 信介2 (1. 東京工業大学 環境・社会理工学院, 2. 亀田総合病院)

User Satisfaction, User Experience, Electronic Medical Record, System Transition

本研究は,電子カルテの移行前後において生じるユーザエクスペリエンス上の課題を,主に移行前の期待と移行前後の満足度の視点で明らかにすることを目的に実施した。
調査は,2019年に内製型の電子カルテからパッケージ型の電子カルテへの移行が行われた医療機関を対象としたアンケート調査により行なった。
調査方法は,複数時点における満足度等の変化を理由とともに回答してもらうアンケート調査手法を採用した。回答してもらう主なフェーズと内容は,移行前の電子カルテの満足度,移行前における新しい電子カルテへの期待度,移行直後の満足度,移行1年半後の満足度の4時点とし,軽微な変化も回答できるように11段階のスケールを設定した。医師,看護師,薬剤師,医療技術者を対象にウェブアンケートを用いて調査を実施した結果,253名の有効回答を得た。
分析の結果,全体として電子カルテ移行直後のユーザ満足度は大きく低下し,移行1年半後においても不満に感じているユーザが半数を超え,満足度が移行前の水準まで回復していないことが明らかになった。職種別の差をみると,医師の満足度は看護師に対して有意に低い傾向が見られた。この理由の一つとして,電子カルテ上で医師が活用する機能の権限範囲が他職種と比べて相対的に大きいことが可能性として考えられる。さらに,移行前の電子カルテの利用歴が2年以上のユーザはそれ未満のユーザに対して有意に満足度が低い傾向も見られた。この傾向は,自由記述回答の結果を基に考察すると,長年使い慣れた電子カルテから新しいものに移行を強いられる経験に対する不満として挙がった可能性や,内製型とパッケージ型の電子カルテの性質の違いが影響していることが考えられる。
本研究の結果を踏まえ,今後多くの医療従事者にとって負担の少ない円滑な移行を実現するためにも,インタフェースまで含めた電子カルテの標準化の議論が前進することが望まれる。