[2-I-2-04] 日本病理学会における病理診断支援AI開発
―Japan Pathology AI Diagnostics Project (JP-AID)―
Artificial intelligence, Pathology, Whole slide image, Gastric biopsy, Segmentation
日本では慢性的な病理医の不足が続いており、病院内に勤務する病理医が1名しかいない、いわゆる「一人病理医」が少なくない。日本病理学会では日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け、国立情報学研究所(NII)と連携し、主に一人病理医の診断ダブルチェックに役立つような病理診断支援AIの開発に取り組んだ。 まず日常病理診断業務で最も頻度の高いと考えられる胃生検を対象に、癌の有無及び存在範囲の描出を行うAIを開発した。病理デジタル画像(whole slide image, WSI)は超高解像度の画像であり、通常のGPUで処理するには画像を細かいパッチに分割する必要があるが、AIにパッチレベルでの学習と判定をさせるだけでは弱拡大の情報が生かせず、偽陽性が多くなる問題が生じた。そこでパッチから抽出した特徴量の元画像における分布も考慮した学習手法(multi-stage semantic segmentation for pathology, MSP法)を開発し、機械学習に適用した。その結果、癌/非腫瘍の判定において感度92.8%、特異度94.6%、ROC曲線のAUC値0.975という実用レベルのAIモデルを作成できた。このモデルは、異なる10施設から収集した病理画像でも検証され、AUC値の平均0.969±0.020と高い性能を発揮できることが示された。また本事業では、開発したAIモデルを福島・徳島の地域遠隔病理診断ネットワークで実装実験を行い、その有用性を確認した。MSP法は胃生検だけでなく大腸生検でも有用であり、非腫瘍/良性腺腫/癌の3段階分類で病理診断との一致率92%を達成した。JP-AID事業では他にも子宮頚部生検(異形成・癌の検出)、胃生検(腸上皮化生の評価)、核分裂像計数、腫瘍細胞比率判定、肺腺癌の間質浸潤判定、乳腺乳管内病変の良悪判定、の各課題でも多施設からのアノテーション収集とAIモデルの作成・検証を実施した。本事業で作成したAIモデルが病理診断業務の負担軽減につながることが期待される。