Japan Association for Medical Informatics

[3-A-2-01] 健康医療領域におけるReal World Data活用の発展

*Naoki Nakashima1,2 (1. Japan Association for Medical Informatics, 2. Medical Information Center, Kyushu University Hospital)

Real World Data, Learning Health System, Personalization, Personal Health Record

近年、Real World Data(RWD)の活用が注目されている。その理由に、ランダム化比較試験のコストが高いこと、その実験的な環境が実社会環境を必ずしも反映しないこと、の2点を挙げることが多い。本講演では、少し異なる視点でのRWD活用の利点を挙げたい。
現在のRWD活用の多く(例えばNDB、MID-NET、臨中ネット、疾患レジストリー研究など)は匿名化を前提とし、データ解析結果は、臨床現場に直接還元されることはなく、学会発表/論文やガイドライン、政策反映などにより社会に還元される(Real World Evidence(RWE)化、Step1とする)。
次の段階は、米国で2006年に提案されたLearning Health System(LHS)へ向かうであろう。その特徴は、大規模データの解析結果を、臨床現場のルール変更に直接還元することである。例として、AMEDの標準化クリニカルパス(以下パス)事業(ePath事業)を挙げる。パスデータ解析の結果でルールの塊であるパスを修正し、医療プロセスを改善する。日本が得意な製造業のPDCAサイクルそのものであり、医療の工程プロセス処理化とも言える(LHS化、Step2)。しかしながら、個別の患者へ直接還元されるのではなく、臨床現場への直接の還元であり、ルール修正後にパスを適用される患者へ還元される。
三段階目はデジタルトランスフォーメーションの色彩が強くなるが、患者個別への対応である。患者の個人端末を医療機関は登録し、データを集積する。個別データを解析した結果を直接その患者個人端末に送り、行動変容を働きかける。臨床予後予測ツールの実装とデータ集積が好例である。大規模データの集積は患者個別のLHSを基礎に行われ、急激かつ効率的に医療の質改善が進む(個別化、Step3)。このStep3は、特にPersonal Health Record(PHR)がそのツールとして用いられ、双方向の持続的なコミュニケーションを前提とした医療者/保険者と患者/健常者の間のエンゲージメント増強がその推進力となる。3Stepsは排他的ではなく継続的に進む。以上の発展を可能とすることがRWD活用の大きな利点である。