一般社団法人 日本医療情報学会

[3-A-3-04] 日本病理学会における病理画像データベース構築と利活用
―臨床学会の立場から―

*阿部 浩幸1,2、倉田 盛人1,3、吉澤 明彦1,4、深山 正久1,5、北川 昌伸1,3 (1. 日本病理学会、2. 東京大学、3. 東京医科歯科大学、4. 京都大学、5. 国保旭中央病院)

日本病理学会では日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け、Japan Pathology AI Diagnostics (JP-AID)事業として、全国23施設から17万症例を越える病理画像(Pathology whole slide image, P-WSI)と付随する臨床病理学的情報を収集し、世界に類を見ない巨大データベースを構築した。収集したデータは、AIを含む画像解析技術と結びつくことにより医療における技術革新を促進する可能性を秘めている。
しかしながら、JP-AID事業が開始された2016年以降、改正個人情報保護法の施行(2017年)や次世代医療基盤法の施行(2018年)等、医療をめぐる個人情報保護規制が大きく変化してきた。JP-AIDデータベースは医学系研究倫理指針(当時)に準拠し、患者さんからの個別のオプトイン同意は取らず、ホームページ等での情報公開によるオプトアウトに基づき収集された画像データにより構築されている。大学・研究機関等の学術団体(企業と学術研究機関との共同研究を含む)が学術研究目的で利活用する場合には、個人情報保護法第76条の「適用除外」にあたると考えられ、データ提供が可能と考えられる。しかし民間営利企業が製品開発にデータを利用したいと考えた場合、オプトアウトのみに基づく提供は困難である。しかし17万件に及ぶデータについて個別にオプトインで同意を取得すること、次世代医療基盤法の定める「通知によるオプトアウト」を実施することは現実的に不可能である。
営利企業のデータベース利活用を可能とするには、個人情報保護法が規定する「匿名加工情報」を学会が主体となって作成し提供する方法が考えられる。また個人情報保護委員会からは「個人情報を学習データセットとして用いて生成した学習済みパラメータは、特定の個人との対応関係が排斥されている限りにおいては個人情報に該当しない」との見解が出ており、学術目的でデータベースを利用し生成したAIモデルを、企業が利活用することは可能ではないかと考えている。