一般社団法人 日本医療情報学会

[3-B-2-02] 看護におけるDX-新しい技術と古いモデルの見直し-

*柏木 公一1 (1. 国立看護大学校)

Nursing Informatics, Digital Transformation, Hospital Information Systems

DXという言葉から想起されることを3点お話しする。
1点目は新しい技術を取り入れることである。音声をそのまま看護記録として記載するのではなく、音声によって指示を与え看護記録を完成させる技術は、様々な応用が考えられ大きなブレイクスルーとなりうる。また、安価で小型のセンサー類は、看護師配置数と患者アウトカムの関係といったブラックボックスを明らかにするのに役立つかもしれない。
2点目は、伝票に基づいた古いモデルからの脱却である。入院中の処方せんは、不足する薬剤の補充という意味あいが強く、現在内服している薬を管理するには処方せんとは別に薬歴システムが必要である。しかし、現存する伝票を順次システム化してきた病院情報システムではその導入が遅れた。また、入院患者の処方変更にあたっては、薬剤師や看護師の確認が行われるが、処方せんには「処方理由」という欄がないためわざわざ医師に連絡をとる必要がある。CT検査でがんの疑いがあるという放射線科医の所見に気づくのが遅れたという事件があったが、重要な情報伝達において確認というプロセスが実装されていないシステムにも一因がある。病院の情報システムは、紙の伝票に基づくモデルから脱却し、業務システムとして再設計を行う必要がある。
最後に、このような古いシステムを見直そうとしても、パッケージシステムを導入している医療機関にできることは少ない。また、ベンダーがユーザの声を聞いていても、根本的な見直しはできそうにない。医療従事者の多くは与えられたシステムを使いこなすことに焦点を置きがちで、不便なところは指摘できても、本来どのようなシステムであるべきかという視点で要望を述べることは少ないからである。医療機関の業務全体を見渡せる知識を持ち、システム設計の橋渡しを行えるような専門家の育成と活用が必要である。