一般社団法人 日本医療情報学会

[3-D-1-07] 組織別薬剤作用経路を用いたDrug repositioning 候補探索手法に関する検討

*田中 達也1、今井 健1 (1. 東京大学大学院 医学系研究科)

Drug Repositioning, Pharmacodynamics, Knowledge Graph

【背景・目的】Drug repositioning (以下DR) は医薬品開発において重要な選択肢であり、in silicoでの効率的な探索を試みる研究が盛んである。既存研究では薬剤に関する類似性や関連性を利用したデータドリブンの手法が多く用いられているが、作用機序についての生物学的妥当性の解釈が困難であるという問題があった。そこで本研究では作用機序を考慮した薬剤作用経路データベース(以下DRAPDB)を構成し、これを用いた経路探索によるDR候補導出手法の提案と、既知のDR適応症の説明可能性の検討を目的とする。【方法】まずDRAPDBの構成要素と必要粒度について検討を行い、“薬剤”、“標的タンパク質”、“細胞内シグナル伝達”、及び“各組織内での状態変化”の各オブジェクトとその間のリンク構造で構成することとした。3つ目までの情報はDrug Bank, STRINGから収集可能であったが、4つ目以降のリンク情報に関しては既存データベースが存在しない為、Gene Ontologyから“細胞レベルの状態変化”までのリンク情報を収集し、それが結果として及ぼす組織レベルでの状態変化の情報は既存の薬理学書から手動で収集した。また組織ごとに遺伝子発現やその状態変化が異なることから、本研究では第1段階として胃・大腸・肝臓・肺の4つを対象とし、各組織別にDRAPDBを構成した。これを元に既知DRデータベースであるrepoDB中の感染症以外の164種類の適応症について作用機序の説明可能性の検証を行った。【結果・考察】164種類中大半のDR適応症の作用機序が説明可能であり、機序説明のみならず未知の適応症候補の導出に対する本手法の有効性が示唆された。また経路の分析からDRAPDB中の“細胞内シグナル伝達での分岐”及び、“各組織における状態変化での分岐”がDRでの新規適応症の発見に寄与していると考えられた。