Japan Association for Medical Informatics

[4-G-2-03] 電子カルテ診療録から終末期がん患者の全人的苦痛を判定する機械学習モデルの構築へ向けた取り組み

*Kento Masukawa1 (1. Department of Palliative Nursing, Course of Nursing Tohoku University Graduate School of Medicine )

今回は緩和ケア領域におけるリアルワールドデータと人工知能の研究事例を紹介する。本事例が大学院生を含めた若手看護研究者の人工知能を活用した今後の研究の参考になれば幸いである。
 緩和ケアは、終末期を中心として患者やその家族のQuality of Life(QOL)の維持・向上を目指すケアである。患者のQOL向上のために身体的苦痛や精神的苦痛のみならず、患者の苦痛全体を「社会的苦痛」や「スピリチュアルな苦痛」を含めた「全人的苦痛」として捉え、適切なケアの提供やケアの質を評価する必要がある。
 終末期患者の苦痛症状に関する情報の多くが電子カルテ内の診療録にフリーテキストの状態で存在しており、その利活用が課題とされている。緩和ケア領域では、米国を中心に自然言語処理と機械学習を活用して、電子カルテの文書記録から患者の苦痛症状を同定する研究が進められている。しかし、先行研究では身体/精神症状が主な対象であり、社会的苦痛やスピリチュアルな苦痛を対象とした研究は実施されていない。
 そこで、電子カルテの診療録から終末期患者の社会的苦痛やスピリチュアルな苦痛を判定する機械学習モデルを構築することとした。大学病院1施設で2年間のうちに死亡した成人がん患者808名の死亡前1ヶ月間の医師記録と看護師記録(N=309,858)を対象とした。各10,000記録を抽出し正解ラベルを付与した後に、自然言語処理と機械学習を活用し自動判定モデルを構築した。その結果、社会的苦痛に関してはAUC=0.947±0.055、スピリチュアルな苦痛に関してはAUC=0.901±0.034の性能で判定が可能であることが示された。自然言語処理と機械学習を活用することで、診療録から身体/精神症状のみならずより社会的苦痛やスピリチュアルな苦痛が判定可能であることが明らかになった。今後、電子カルテシステムと統合できれば、緩和ケアから恩恵を受けうる患者の迅速なスクリーニング等の臨床意思決定支援システムの構築へつながると期待する。