[2-B-1-03] 糖尿病診療のデジタル化
政府は近未来を「Society5.0」と位置づけ、多様なIT端末からサイバー空間に収集されたビッグデータを人工知能(AI)が解析し、フィジカル空間に還元するシステムが多くの社会課題を解決するものとして期待されている。さらに、新型コロナウイルス感染症の収束がみえないパンデミックの下、新しいデジタル化社会の構築が、加速度的に進められている。この流れは医療・健康分野においも急速に推進されており、健診や診療の情報が統合・連携され、また個人が収集した健康データのIoT(Internet of Things)連係による診療が研究開発されている。 非感染性疾患の中で、糖尿病はデジタル化と親和性の高い疾患として注目されている。治療ターゲットの患者が測定する血糖値は以前よりスマートフォンのアプリケーションを介してPersonal Health Record(PHR)として診療の場で活かされてきたが、最近では皮下センサーを介して連続的にモニタリングされた間質液ブドウ糖濃度の膨大なデータがPHRを介して収集され活用されている。インスリンポンプもこのブドウ糖濃度を利用して、個別化した血糖制御アルゴリズムによるインスリンの自動注入が行われるようになった。また、生活習慣と連動する歩数、血圧、体重などの健康情報もPHRを介して収集され、診療に活かされている。今後、これらの情報がさらに統合的に連携し、またElectronic Health Record(EHR)と連動させることにより、診療の効率と安全性を高めた質の向上が期待される。 一方で、PHRおよびEHRの情報の選択と標準化、個人情報の持続的管理、PHRやEHRの管理運用などにおいて課題が山積している。本講演では、糖尿病診療のデジタル化に関する現状と課題について紹介し、今後の進むべき方向性を考察したい。