一般社団法人 日本医療情報学会

[2-P-5-05] 1960年代後半から1970年代前半にかけての日本における病院情報システム研究の勃興と病院におけるコンピューター導入の歴史研究及び当事者へのインタビュー調査の展望

*奈須野 文槻1 (1.東京大学)

History of Medical Informatics, Hospital Information Systems, History of Hospital Information Systems

本研究は日本の病院情報システムの現状を理解するために、日本における病院情報システム研究の勃興から病院におけるコンピューターの導入に至るまでの歴史的な経緯を明らかにするものである。発表者は1950年代から1980年までの学会誌、コンピューター関連雑誌、病院あるいはコンピューターメーカーによる刊行物等の文献調査を行った。調査により、日本の病院が初めてコンピューターを本格的に導入するようになったのは1970年前後だということがわかった。参考にできる先行事例もなく、コンピューターの医療における有効性も確実ではない中で行われた当時の病院によるコンピューター導入のアプローチは、病院の設立形態に応じて3つの特殊な例とそれ以外の私立病院に分けて分析した。第一に大学病院では、コンピューターの医療応用の先進的な研究が大学でなされていた一方で、病院への導入は時期的な早さは1960年代後半からとあまりなかった。第二に同様に導入において有利だったと考えられる電気通信産業、コンピューター産業の企業病院でも同時期に従業員の健康管理のために導入がすすんだ。特徴的であるのが第三の例である成人病治療及び研究を目的とした公立病院である。1970年代前後にこれらは多く新設され、そのタイミングでコンピューターの導入が同時に進んだ。それ以外の私立病院ではコンピューターを導入した例は少ないものん、大学病院や関連企業病院よりも先駆けて導入計画をすすめていた佼成病院や虎の門病院といった事例があった。本発表ではこの分類に基づいて、導入アプローチの相違点とその背景を分析する。以上から日本における医療情報史の研究の基盤となる事実が整理された。しかし一方で、文献調査だけではコンピュータの医療への導入過程の実態や病院内での反応は不明なままである。そこで発表者は当事者へのインタビュー調査を計画しており、現在研究協力者を募集している。