一般社団法人 日本医療情報学会

[3-I-2-02] 説明責任の構造分析による効果的なアトピー性皮膚炎に対するセルフケアサービスの実装

*柳澤 幸子1、芦崎 晃一1,2、藤江 義啓1、鳥海 友紀子2,3、野村 彩乃2、種瀬 啓士2、川崎 洋2,3、天谷 雅行2,4、横手 靖彦1 (1. 理化学研究所 情報統合本部 先端データサイエンスプロジェクト, 2. 慶應義塾大学 医学部 皮膚科学教室, 3. 理化学研究所 生命医科学研究センター 免疫器官形成研究チーム, 4. 理化学研究所 生命医科学研究センター 皮膚恒常性研究チーム)

Accountability maps, IEC 62853, Personal health records, Minimum viable product, Self-care support for atopic dermatitis

世界的な潮流はパーソナルヘルスレコード(PHR)を科学的根拠に基づいた医療に応用するフェーズへと移行している。このPHRを利活用したサービスを効果的に実用化するためには、ステークホルダー(患者、看護師、医師、データ分析者、サービス運用者、開発者、等々の当該サービスに対して何らかの責任を有する関係者。以下、関係者)への説明責任を明確にする必要がある。患者を含む関係者が説明責任の内容を理解し、関係者間の合意に基づいた履行が求められる。本研究では、説明責任の構造を分析する手法を用いて、関係者の1対1の関係に説明責任を分解する。関係者は相互の説明責任を理解し合意するとともに、説明責任が達成できない状況を想定し対応策を準備しておく。この手法をアトピー性皮膚炎に対するセルフケアを支援するサービスに適用した。アトピー性皮膚炎は患者個々で異なる遺伝的素因の上に、生育環境やライフスタイル等の後天的因子が密接に関わることで発症する病態が多様で複雑な多因子疾患である。しかし、限られた診療時間の中で実施する診察、問診のみでそれら悪化因子を把握することは診療体系的にも難しいのが現状である。そこで、患者のスマートフォンアプリを用いて収集するPHRを診療に応用するだけではなく、患者個別の悪化因子や最適な治療方針を見出すための臨床研究を立案した。76名の患者が参加した本研究は、PHRの利活用を実現する実用最小限のサービスを定義することで、その効果や価値を患者と医療従事者間の関係者が説明責任の構造にあることから検証可能になった。PHRを解析し患者個々の病因を明らかにし、悪化の可能性の予測に基づき、状態に応じた行動変容を促そうとする本研究での手法は、今後の慢性疾患治療に影響を与え、今回の学術大会のテーマである「社会基盤としての医療情報の役割」を明確にし、患者に寄り添った診療を提供することに資すると考える。