一般社団法人 日本医療情報学会

[4-H-1-06] 自殺対策相談チャットの事前相談文からのリスク評価可能性に関する検討

*菊池 愛美1、今井 健1 (1. 東京大学大学院医学系研究科)

Mental health, Suicide prevention, Machine Learning, Risk assessment, Counseling

【背景と目的】日本はG7 で唯一若年層(15〜39 歳)の死因の1 位が自殺である。これに対し各種の電話相談窓口や、NPOによるチャット相談サービスなども提供されているが、人員不足により3割程度の応対率に留まっている。そこで、本研究では機械学習による効率化支援手法の確立に向け、第一段階として現状NPOが収集している事前相談情報の利用可能性の検討を目的とする。
【方法】2021年12月から2022年4月にわたって、チャット相談サービスを行うNPOにて収集された匿名化後のデータ提供を受け、臨床心理士または公認心理師資格を持つ5人で基準を定め、相談内容(908件) の6段階のリスク評価を行った。さらにデータ提供元NPOは、この908件のデータから220件を抽出し、2022年2月から5月にわたって実際に応対するカウンセラー5人で独自の評価基準を策定し5段階のリスク評価を行った。この二種類のデータを用い、実際の相談前に相談者により入力される (1) 基礎情報(年齢・性別・職業・カウンセリング回数)と (2) 事前相談文の内容から、相談内容全体を用いて自殺企図リスクの有無と希死念慮の有無を予測するモデルを勾配ブースティング木(XGBoost)で構築した。
【結果と考察】自殺企図の有無については (1) 基礎情報、(2) 事前相談文章 のいずれも十分な精度が得られなかった。一方、希死念慮の有無については、(1) 基礎情報だけでは分類が困難であったものの、特にNPOが評価したデータの(2) 事前相談文章からはROC-AUC: 0.80, Recall: 0.65, Precision: 0.92程度で分類が可能であった。チャット相談サービスでは希死念慮を持つ高リスク者は積極的に応答したいという需要がある。本検討では、事前相談文からある程度優先的に応対するべき相談者の選別を自動で行える可能性が示唆された。