自治体や公的機関データベースの持つ既存の医療・健康データを統合し解析することで，個々のデータセットのみでは難しい医療課題の評価検討が可能となることから，その利活用は公衆衛生上の重要な課題である．医療分野では，データ所有者である患者がデータの利活用に合意できる枠組みの構築が必須である．既存研究では，オプトインでデータをサーバに収集し，サーバでプライバシを確保する研究が多いが，データ集中はサイバー攻撃の被害拡大の懸念がある．患者のデータは医療機関，健診を担う自治体やデータベース管理施設等，分散管理される．ある人ががん検診で要精査、その後がんが発見された場合，自治体にはがん検診の結果が，医療機関には診断・治療情報が，公的機関のがん登録データベースには診断情報の一部と予後情報が記録される．これらを突合できれば，がん検診による真のがん検出精度を算出・評価が可能となる．しかし現状はプライバシや突合精度担保に要する信頼性とコストから利活用が進んでいない．そこで，我々は医療データの安全な管理方法として，データを分散環境のまま，プライバシ情報を削除した医療データのみを統合する方法PDDIを用いた統合システムを試作し，ダミーデータによる突合実験を実施，パフォーマンスおよび突合精度の影響評価することで，がん検診の精度管理をモデルに，PDDIの疫学研究と医療施策への活用を検討してきた．本稿では，実用化に向けて，分散環境のデータのプライバシを保護したデータ突合の安全性を強化し，ネットワークと接続する計算機には個人情報は保管せずに，分散機関に保存されるデータの突合を実現するソフト開発を行った．さらに，ダミーデータを用いて有効性を検証し，大規模ながん検診の精度管理実現の実用化に向けた安全性分析と性能を報告する．