一般社団法人 日本医療情報学会

[2-B-4-02] 病院電子カルテデータを用いた糖尿病患者における末期腎不全発症予測モデルの開発

*井口 登與志1、奥井 佑2、野尻 千夏2、中島 直樹2 (1. 福岡市医師会 福岡市健康づくりサポートセンター、2. 九州大学病院メデイカル・インフォメーションセンター)

diabetic kidney disease, end-stage kidney disease, prediction, bilirubin

糖尿病性腎症の透析導入予防のために末期腎不全(ESKD)への進展リスクを簡易でかつ精度高く予測出来る方法の開発が望まれる。そこで病院電子カルテデータを用いて糖尿病患者におけるESKD発症予測モデルを開発した(Inoguchi et al. Sci Rep, 2022)。九州大学病院に2008年~2019年の間に1年以上通院しeGFRを経過中5回以上測定していた2549例を対象とした。ESKD(eGFR<15 ml/min/1.73m2、透析導入または移植)を目的変数、20個のリスク因子を説明変数として機械学習ランダムフォレスト法(RF法)とCox比例ハザードモデル(Cox解析)を用いて解析した。観察期間の中央値4.7年、ESKD発症は176例(6.2%)。RF法とCox解析いずれのモデルでもESKD発症に対する寄与度は、eGFR、尿蛋白陽性、HbA1、血清アルブミン値、血清ビリルビン値の順位で高かった。この5因子とCox解析により予測モデルを作成した。5年以内のESKD発症予測に対する判別能はC統計量0.895と全20因子のC統計量と同等であった。ESKD発症の予測確率と観察確率の一致度(calibration)も良好であった。外部コホート5153例を対象とした検討でも、判別能およびcalibration共に良好で臨床的有用性が示唆された。 また演者らは、先天性に高ビリルビン血症を示すジルベール症候群を併発した糖尿病患者では酸化ストレス・炎症の抑制と腎症発症率が極めて少ないこと(Inoguchi et al, JAMA, 2007)、糖尿病モデル動物を用いたビリルビンの腎症進展抑制効果(Fujii, et al. Kidney Int, 2010)など腎症進展と血清ビリルビン値の関連を報告してきた。今回の予測モデルにより、血清ビリルビン値はESKD進展の重要なリスク因子であることが示された。