[2-F-1-05] Scottish Safe HavenにおけるTREとFive Safe Model から学ぶ―改正次世代医療基盤法に基づく「仮名加工医療情報」の利活用に向けて
Scottish Safe Haven, Trusted Research Environment, Five Safes Model, Data Linkage
2018年施行の次世代医療基盤法では、認定匿名加工医療情報作成事業者を通じ、医療情報の収集と匿名加工医療情報、統計情報の提供が可能となった。しかし昨今のデータサイエンスでは、多くの変数を要求する機械学習や探索的な分析が多く、具体的な変数や匿名化の手法を決定する前段階でのデータへのアクセスが必要とされるため、2023年の同法改正では「仮名加工医療情報」の利活用も一定の条件下で可能となった。しかし利用者にデータを提供する現在の方式では、利用者の資格や安全管理において厳しい条件が求められ、実現性が低くなる可能性がある。そこで本研究は、英国はスコットランドにおいて、このような課題を解決したScottish Safe Haven(以下SSH)の事例から実現可能な制度を学ぶ。 医療データの収集と加工を主に担うSSHでは、TRE(Trusted Research Environment)という研究環境を整備し、TREと仮名化された健康データ(de-identified health data)の提供を一体化して運用することで、安全性と研究の促進を図っている。SSHのTREとは、データセンター内の環境へのリモートアクセスと物理的訪問の二種類がある。TREの仮名化された健康データを用いた研究に対しては、Five Safe Modelと呼ばれるデータを保護し、開示リスクを最小化する5つの安全指針で運用されている。それは「安全な利用者」「安全な研究プロジェクト」「安全な施設/環境(における研究)」「安全なデータ(の提供)」「安全な分析結果(の持ち出し)」からなり、TRE下での利活用に伴う5つの側面に対して、詳細な規定を設けて安全管理とリスク制御を実施するものである。このような手法で安全に仮名加工医療情報を用いた研究がスコットランドで進んでいることに鑑み、本事例は我が国の今後の制度設計の参考になると思われる。