Japan Association for Medical Informatics

[2-G-5-03] 腎細胞がん患者に対するチロシンキナーゼ阻害薬誘発性高血圧の発現に関する実態調査及び関連因子の検討

*Satoru Nakanishi1, Keisuke Ikegami1, Shungo Imai1, Hayato Kizaki1, Satoko Hori1 (1. 慶應義塾大学薬学部/薬学研究科)

hypertension, renal cell carcinoma, tyrosine kinase inhibitor, proton pump inhibitor

【目的】腎細胞がんに使用されるチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の重要な副作用に高血圧がある.日本人のTKI誘発性高血圧の発現率は海外よりも高いとされているが,本邦での調査は単施設に限られ,その発現に伴う降圧薬の処方実態に関する知見も乏しい.また,Proton Pump Inhibitor(PPI)はその薬理作用からTKI誘発性高血圧のリスクを下げる可能性があるものの,実臨床における効果は未検証である.そこで本研究では,本邦における腎細胞がん患者に対するTKI 誘発性高血圧の発現状況及び降圧薬の処方実態を調査し,その関連因子の探索によりPPIの寄与を評価した.
【方法】Medical Data Vision社の診療情報データベースに登録され,2008年4月から2021年7月にTKIが処方された腎細胞がん患者を対象とした.TKI誘発性高血圧は,TKI処方期間中の高血圧の診断と降圧薬処方により検出した.降圧薬処方を単純集計し,Cox比例ハザードモデルを用いてTKI誘発性高血圧発現に寄与する関連因子を探索した.共変量としてPPI併用に加え,既知の因子(年齢,BMI,既存の高血圧),性別,初回TKIの種類を投入した.欠損値は多重代入法により補填した.
【結果・考察】解析対象となった233例のうち,91例(39.1%)に高血圧が発現した.この割合は既報と近似していた.降圧薬としてCa拮抗薬(91例中75例)及びループ利尿薬(91例中37例)が選択される傾向があり,高齢かつ腎機能低下を伴うことが多い腎細胞がん患者の背景の影響が考えられた.高血圧発現に寄与するリスク因子として「既存の高血圧」が抽出され,高血圧合併例に対する血圧管理の重要性が示された.一方,PPI併用は統計学的に有意ではなく,TKI誘発性高血圧の抑制効果は認められなかった.今後は血圧値を有するデータソースを用いたさらなる検証が必要である.