Japan Association for Medical Informatics

[2-H-1-01] 糖尿病患者の心理的課題をケアするためのデジタルツール利用の現状

*Kyoko Akano1, Taro Sugihara1 (1. 東京工業大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系)

Digital mental health, PRH, Diabetes distress

緒言
糖尿病は心理的苦痛のリスクが高いが、十分にケアされていない。メンタルヘルスケアはアクセスが困難であり、デジタルヘルスの活用が試みられている。糖尿病の分野では、自己管理やPHRなどのデジタルヘルスのツールが実用化されているが、その採用に関して医師と患者を系統的に調査した報告はない。そこで、本研究では、糖尿病患者の心理的課題に対する評価と介入をデジタルツールが支援するために必要な要素を明らかにすることを目的として、インタビューによる探索的調査を実施した。

方法
Snowball Sampling を用い、2型糖尿病の診療経験がある医師9名をリクルートし、ビデオ会議システムを用いた約60分の半構造化インタビューを行った。インタビューは、MAXQDA を用いてコーディングを行い、Gioia法に沿って帰納的に分析した。倫理的配慮のため、東京工業大学の人を対象とする研究倫理審査委員会規則に基づき研究計画を審査し承認を得た。

結果
医師は、可能な範囲で患者の心理社会的負担の軽減に努めていたが、介入の目的や方法は標準化されていなかった。患者の自己管理行動が可視化されることは医師が診療方針を決定するために有用であった。PHR等のセルフトラッキングに対する医師の期待が高い。一方で、既に利用可能な自己管理アプリ等は、診察の場では十分に活かされていなかった。医療現場では、デジタル化が遅延していて新しい技術の導入に障壁があった。医師は対面で築いてきた医療者と患者の関係や診療方法を変えることへの抵抗があった。

結語
患者の心理的課題に対処することが2型糖尿病の治療において重要な要素であることは医師の共通認識であるが、対応方法は標準化されておらず、既存のデジタルツールやアプリも診療に活かす場面が少ない。医師や病院が積極的にデジタルツールの導入を推し進める努力をしなければ、技術導入には結びつかないと思われる。