[3-F-4-01] 携帯電話技術を活用した感染症対策の実現可能性と問題状況
2020年に発生したCOVID-19の大規模拡大は、世界的に感染症対策の重要性を認識させた一方で、各国での感染症対策の成否を如実に表す結果をもたらした。日本では、全体としての感染抑止にも成功したとは言いがたいが、明白に失敗だったと総括されるのは、携帯アプリCOCOAである。COCOAの開発経緯については同情すべき点もあるものの、コロナ禍で感染抑止効果をほとんど発揮しなかった事実は否定しがたい。我々は、科学技術振興機構(JST)・社会技術研究開発センター(RISTEX)のELSIプログラムの一環で、携帯電話関連技術による感染症対策の技術的可能性、社会的受容可能性、法的・倫理的・社会的な問題の解決可能性につき検討を重ねてきた。本WSは、我々のプロジェクトにおけるこれまでの研究成果報告を主な目的とする。 米村からは、全体的な問題状況の整理と分析を示す。コロナ禍において感染症対策のスマートフォンアプリは多数の国・地域で導入されたが、その機能や考え方には大きな違いがあった。日本では、プライバシー情報の利活用に対する懸念からCOCOAは個人情報を取得せず、端末間の接触情報のみを取得・活用するスキームだったが、これが機能的な制約を招き社会一般の信頼の獲得にも失敗した。そこで第1に、技術的により機能性の高いアプリを開発することができないかを検討する必要がある。他方で、その種のアプリが十分に機能するには社会的受容が重要であり、第2に、種々のアプリ仕様に対する一般の人々の意識や受容可能性を探る必要もある。さらに、これがELSIの観点から客観的に正当化されうることも必要であり、第3に、情報利活用に関する法的な検討も必要である。 今後の感染症危機に向けて、技術的にも法的・社会的にも実現可能な情報利活用のスキームを提示することは極めて重要であり、参加者諸氏と問題意識の共有を図りたいと考える。