一般社団法人 日本医療情報学会

[3-F-4-03] 社会対話班からの活動報告:2つの市民調査を中心に

*尾藤 誠司1 (1. 東京医療センター 臨床疫学研究室)

[背景と目的]
本発表では、研究開発事業全体の中の「社会対話班」で行った研究開発の進捗状況について発表する。今回は特に、一般市民の接触トレーシングアプリの機能に関する2つの市民調査を中心に発表する。
[実施した調査の概要]
その1. COVID-19感染対策アプリの機能とプライバシーのトレードオフ調査:現状のCOCOAに追加される機能(自動登録、位置情報追跡、感染予防対策反映)に対する受け入れ度を成人住民を対象に調査した。感染者半減の効果期待される機能についてはアプリ利用の受け入れどは増す一方で、携帯電話利用料割引などの得点があってもアプリ利用に関する受け入れ度は高くならないことが示唆された。
その2. 感染症パンデミック時の接触者追跡アプリケーション機能の組み合わせに対する市民の嗜好調査:コンジョイント分析:プライバシーリスク、健康上の利益、金銭的インセンティブ、公益の関係を考慮し、政府または営利団体がアプリケーションを管理する2つの異なるシナリオに焦点を当てた。市民は、公衆衛生的視点からの健康利益を高める機能を相対的に重視する傾向がみられた。一方で、個人情報の目的外利用や漏洩に対するリスクがある機能については、逆の選好を表明した。
[考察と今後の展開]
調査結果は、感染症対策とプライバシー保護の間の複雑なトレードオフを明示し、集団単位での健康利益と個人のプライバシーリスクとの衡量について社会対話を行う上で有用な実証根拠を提示したと考える。社会対話班では、現在効果的な感染症対策とプライバシー保護の両立を図る方略に関する提言作成ワーキングを進行中である。今後のIoT社会の進展に伴い、個人のプライバシー保護と公共的利益、便利な世の中とのバランスについて、行政機関を含む多様な関係者間での国民的議論が必要となる。本研究は、そのような議論の礎となる重要な示唆を提供すると期待される。