一般社団法人 日本医療情報学会

[4-H-2-04] 擬似的な12誘導心電図波形の生成:疾患を有しない成人を対象に

*城 真範1、関口 祐1、香川 璃奈2、佐藤 洋1 (1. 産業技術総合研究所, 2. 筑波大学 医学医療系)

ECG, pseudo data, MQTT

数式・数理モデルによって生成された擬似的な生体データは、個人情報を暴露するリスクなく、誰でも自由に利用できる利点がある。今回、疾患を有しない成人を対象とした擬似的な12誘導心電図波形を数理モデルによって生成する方法を開発・実装した。心電図を生成する数理モデルは、McSharry(2003)による四肢誘導のモデル(P波、Q波、R波、S波、T波をそれぞれをガウス関数の重ね合わせにて表現する常微分方程式ベースの方法)を12誘導に拡張した。ここではモデルの表現力を高めるために、各誘導に比例係数のパラメータを追加し、14個のパラメータで波形を制御する。Tabassum(2020)が提案した値をもとに初期値を選択し、パラメータを非線形最小二乗法を使って決定した。観測データには、Bousseljot(1995)によって公開されている実データのセットから"control"のアノテーションがついているデータ80レコードを抽出して用いた。R-R間隔は自己相関の最小値から求めた適切な次元の遅れ時間座標上で、共分散をもとに作成できるようにした。微分方程式の離散化にはルンゲクッタ法を利用した。多くの心電計と同様に毎秒500点の実数値を出力できるよう、高速化のためにLinux上でC++言語を用いて実装した。出力はJSON形式の数値列であるが、将来的に、他の計算機から得られた別種の擬似的データと同期をとって出力できるようにするため、IoTの分野で広く採用されているMQTTプロトコルを用いてネットワーク上へ送信できるよう設計した。
本研究ではパラメータを決めるために利用した観測データの数が限られた。今後はより多くの観測データを用いて、疾患を有しない成人の波形を生成できる数理モデルについて、そのパラメータの範囲を明らかにしたい。