一般社団法人 日本医療情報学会

[2-C-3-01] 医薬品と医療機器の安全対策の比較

*横井 英人1,2 (1. 香川大学医学部附属病院 医療情報部、2. 香川大学医学部附属病院 臨床研究支援センター)

本発表では、医薬品と医療機器の安全対策の違いについて論じる。医療機器の安全対策は、医薬品で実施された手法を参考に整備されてきた歴史を持つ。医薬品の安全対策としては、2000年代初頭にICH国際医薬用語集MedDRAを使用した構造化された電子報告システムが国内外で運用開始され、国内では2010年前後にそれらのデータを用いて、対策が必要な副作用発現の可能性を示唆するシグナルディテクション(SD)を含む種々の解析手法が運用されるに至った。医療機器では、国内に於いて2020年に、医療機器不具合用語集を用いてラベリングされた報告を、構造化された形で処理できる新しい電子報告システムが稼働開始した。これにより、精度の高い集計処理ができる環境が整い、医療機器でもSD手法が適用可能な状況となった。
医薬品と医療機器の安全対策のための情報として、医療者や患者から寄せられる自発報告が挙げられる。これらにはしばしば報告バイアスが伴うが、日々新たな安全情報が集積され、対応を検討するための重要な情報である。医薬品の場合、人によるエラーは比較的明確であることが多く、薬理的に起こった副作用との切り分けが容易であるが、医療機器では、機器を使用した手技中に起きた健康被害の原因が、人によるエラーか機器自体の不具合か、明確でないことがある。また同時に複数の医薬品の投与があった場合、副作用の被疑薬を特定するのが難しいことがあるが、機器と患者の健康被害との関連性は、物理的な理由などにより、容易に否定できることがある。
このような両者の違いを鑑み、総説論文では、医薬品のSDに頻用される不均衡分析は医療機器でも有用であるとする論文があるものの、その適用には制限があり、医薬品と同じような手法を適用するだけでは妥当な結果が得られない可能性が示唆されている。