近年、診療データを源としたリアルワールドデータの利用によるAI開発やリアルワールドエビデンスの創出が注目されている。すでに、臨中ネットや６NC事業による「電子カルテ情報を活用したリアルワールドデータ収集・提供基盤の構築事業」をはじめとした多くのデータ利活用のプロジェクトが進行している。従来の多施設によるデータ収集等の枠組みでは、院内のカウンターとなる診療科や部門が個別に対応を行っており、各プロジェクトがバラバラに動き、医療情報部が管理するデータ利活用基盤も個別対応となるため、病院全体としての方針、基準、チェック機能等がないことが課題である。医療情報の利活用にあたっては、情報セキュリティ、個人情報保護、各種法律やガイドラインへの準拠等に留意する必要があり、利活用に関する基準設定や、個々の利活用案件ごとに基準への適・不適の審査を行い、「適正な運用」が行われるような枠組みが必要であると考えられる。
当院ではデータ利用のガバナンス体制を整備し運用することを目的に、「データ利活用部」を新設、一方、既設の医療情報部では「医療情報利活用対応室」を置き、主に技術的な対応を担うこととした。データ利活用部は、データ利活用企画・開発室とデータ利活用審査室の２つの室で構成し、前者は医師、看護師、薬剤師、医療情報部のメンバーなどから構成され、データ利用に際しての病院ポリシィの作成や、病院全体で統一したデータ収集の枠組みの構築を担当している。後者は高次的な観点から、個々の利活用案件に対する審査委員会の運用を担当する。病院全体で収集するデータの標準化および構造化には可能な限り共通のテンプレートを用いることとし、診療データの検索・参照の仕組みとセットで提供を開始している。シンポジウムでは、当院で検討した枠組み、運用基準や病院で運用を開始した共通テンプレート等を紹介する。