Japan Association for Medical Informatics

[2-D-5-03] AROの立場から

*Kouta Funakoshi1 (1. Center for Clinical and Translational Research, Kyushu University Hospital)

Academic Research Organization (ARO)は、大学や研究機関内で臨床研究や医学研究を支援する組織であり、治療法がない患者に新たな医療を届けることを支援することをミッションとする。
アカデミア発の基礎研究の成果の実用化や、製薬企業が経済的理由などから開発に消極的な希少疾患や難病に対する新たな治療法の開発を行うなど、その実現方法はさまざまではあるが、最終的には製薬企業や医療機器企業へ導出し社会実装を委ねることになる。そのためには、産業界の経済的なメリットも必要である。
仮に承認申請時の臨床試験の成績に係る資料として用いられる医師主導治験のデータをオープンデータとした場合、導入を検討する企業にとっては競合企業の参入障壁が低くなってしまうことから、期待される商業的利益が導入コストに見合わないと判断されかねない。
一方、実用化の方法として、近年リアルワールドエビデンスの利用も注目されている。臨床評価報告書による承認申請、あるいは、治験の対照群としてのレジストリデータの利用である。前者には市販薬の適応拡大に資するデータを集積したアカデミアの論文が必要だが、併存疾患のために偶然投与される・意図的に適応外使用される症例といった、稀な症例の集積を要する。臨床研究中核病院は、その基盤となる「臨中ネット」の構築に共同で取り組んできたが、持続可能性を模索している。また、後者を目指すレジストリは公的研究費を獲得して開始されることが多いが、研究費終了後の維持が同様に課題となる。複数企業と共同研究等の形態でパートナーシップ契約を結ぶことで維持を行う例もあるが、オープンデータ化とは相反する。
いずれにせよ、AROはアカデミアにおける産業界との接点を担っており、産業界の経済的な利益にならなければエコシステムの形成が困難となること現実を知るとオープンデータの理念は理解するものの、躊躇される。