[2-F-1-02] 電子カルテシステムの導入が引き起こすインシデント事例
Electronic medical record system, Incident reporting, System implementation, Paper medical records, Outpatient setting
【目的】都内の中規模病院Aは2023年3月に従来のオーダリングシステムから電子カルテシステム(EMR)に切り替え診療録や看護記録の電子化を図った。本研究の目的はEMRを導入したことによって起きたと考えられるインシデント事例を調査することである。【方法】病院Aは些細なことも必ずインシデント報告をする体制である。EMRの運用が始まった2023年3月22日以降2024年3月21日までの1年間のインシデント報告の中でEMRが関与していると考えられる事例を病院の責任者に抜粋してもらい分類した。【結果】調査期間中、EMRが関与していると考えられるインシデント報告は41件あり、3件が影響度分類レベル0、38件がレベル1であった。要因を大別すると、EMRへの入力ミスや誤った操作による事例が21件、紙カルテや検査伝票がなくなったことで生じた事例が14件、その他が6件であり、うち39件が外来で起きていた。外来の事例では複数の科を受診する患者に対し、受診する科の順序をEMR側で整理する機能がなく、患者が不必要に待たされたり、受診中なのに別の科で呼ばれてしまうという問題が発生した。発生件数は前半の6ヶ月で9件、後半の6ヶ月で32件であった。【考察・結論】EMRは紙カルテの全機能を代替した上で紙カルテにはない付加価値を齎すと考えられてきた。本調査から紙カルテの廃止により起こったと考えられるインシデントが特定され、その大部分が外来部門に集中していることからEMRに外来における紙カルテの代替という設計思想が欠如している可能性が見出された。病院Aでは紙のチェックリストやEMRのテンプレート機能を用いることでインシデントを防止するための工夫をしていたが、その分業務負担が増えることになる。EMRは外来部門における患者中心の設計に注力する必要性が示唆されたと考える。【倫理的配慮】所属機関のIRB承認済みである。
