日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PA(01-64)

ポスター発表 PA(01-64)

2016年10月8日(土) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PA56] 女子高校生の学力に対する自己評価バイアスと大学受験行動

宮本友弘1, 相良順子2, 倉元直樹3, 鈴木悦子4 (1.東北大学, 2.聖徳大学, 3.東北大学, 4.聖徳大学)

キーワード:女子高校生, 自己評価バイアス, 大学受験行動

問   題
 女子高校生において,実力とその認知のズレ(自己評価バイアス)はキャリア形成にどのような影響を与えるのであろうか。この点について,相良他(2016)は,標準学力テストの偏差値(50以上を上位,50以下を下位)と学力認知の回答(“苦手・やや苦手”,“ふつう”,“やや得意・得意”)から6タイプ(L1:下位・苦手,L2:下位・ふつう,L3:下位・得意,H1:上位・苦手,H2:上位・ふつう,H3:上位・得意)の自己評価バイアス群を構成し,比較した。その結果,とくに英語においてH1群はL3群よりも自己価値を低く認識し,自分なりの達成基準をめざす自己充実的達成動機も低かった。
 本研究ではこうした自己評価バイアスが大学受験行動にどう影響するかを探索する。とくに,第1志望校を誰が主体で決めたか,また,自分の成績に比してどのくらいの難易度であったかに着目して検討する。
方   法
 調査対象 首都圏の私立女子高校3年生130名。
 調査時期 2015年7月と翌年の2月。
 調査内容 7月の質問紙では各教科に対する学力認知等について尋ねた。2月の質問紙では第1志望校の決定主体や難易度等について尋ねた。
 手続き 調査は担任を通じて実施された。なお,実施にあたっては聖徳大学「ヒューマンスタディに関する倫理審査委員会」の承認を得た。
結果・考察
(1) 受験行動の分類
 第1志望校の決定主体の回答のうち,“ほとんど他の人の意見で決めた・他の人の意見を参考に決めた部分が多い・自分と他の人の意見は半々くらい”を「他者決定」,“自分で決めた部分が多い・全部自分で決めた”を「自己決定」とした。また,難易度の回答のうち,“やさしかった・どちらかといえばやさしかった”を「無難」,“どちらかといえば難しかった・非常に難しかった”を「挑戦」とした。Table 1は両者の人数をクロス集計したものである。χ2検定の結果,人数の偏りは有意であった (χ2(1)=5.87,p<.05)。残差分析によれば,他者決定では無難が有意に多く,自己決定では挑戦が有意に多かった。受験時の挑戦行動は自己決定によって促される可能性が示唆された。
 両者の組合せから受験行動を4タイプ(他者・無難,他者・挑戦,自己・無難,自己・挑戦)に分類した。受験に関わるその他の行動について,4タイプで比較すると,自己・無難は2年,他者・無難は3年で第1志望校を決定する者が有意に多かった。また,自己・挑戦は,他者・無難,他者・挑戦よりも,保護者の意見を参考にしなかった。
(2) 学力の自己評価バイアスと受験行動の関連
 前記した方法で,学力に対する6つの自己評バイアス群を構成した。ここでは,相良他(2016)で顕著な特徴がみられた英語を取り上げる。
 Table 2は,自己評価バイアス群別に受験行動の割合を示したものである。実際の学力と認知のズレが大きいL3とH1に注目すると,L3では自己・無難が,H1では自己・挑戦の割合が高かった。日常の学力に対する自己評価バイアスと大学受験行動は必ずしも整合しないことが示唆された。
引用文献
相良他(2016).女子高校生の学力認知と自己評価-自己呈示欲求と達成動機の関連- 聖徳大学紀要,26,33-38.
付   記
 本研究はJSPS科研費(26380949)の助成を受けた。