日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PA(65-84)

ポスター発表 PA(65-84)

2016年10月8日(土) 10:00 〜 12:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PA72] 「精神的充足・社会的適応力」評価尺度の学級経営への活用(6)

部活動を単位としたマトリックス図の検討

綿井雅康1, 加藤陽子2 (1.十文字学園女子大学, 2.十文字学園女子大学)

キーワード:学校適応, 部活動, 評価尺度

 綿井ら(2015)は「精神的充足・社会的適応力」評価尺度(綿井・菅野,2002)の回答結果から作成した学級ごとの二次元布置図を学級経営に活用すること目的として,同一学年(年度)内に複数回の測定を実施した。各測定後,二次元布置図を予め分析し,主に前回結果からの変化に着目して担任教諭団と協議を行った。その結果,担任教諭は前回の協議を踏まえた学級経営や生徒対応をしていること,生徒の結果が大きく変化した背景には,教師と学級の生徒全体がもたらす力動性が大きく関与していることが示された。一方,協議のなかで,生徒が所属する部活(クラブ)での様子が結果に影響している言及,さらには,教諭が指導するクラブ単位で布置図の分析を求める言及があった。中学生の学校適応にとって,クラブでの活動や人間関係は学習活動や学級の人間関係と同等以上の影響があることが知られている(岡田,2009)。そこで本研究は,クラブごとに二次元布置図を作成し,部活動の内容と布置図の特徴との関連を分析し,部活指導における布置図の活用可能性を検討する。
方   法
[対象] 首都圏にある中学校の1,2年生を対象とした。「精神的充足・社会的適応力」評価尺度を7月初旬と12月中旬の2回,いずれもHRの時間を利用して学級ごとに回答させた。
[手続き] 12月中旬に実施した回答について,生徒ごとに各特性の得点を算出して段階点に変換した。さらに,「精神的充足」「社会的適応力」ごとに段階点を合計して,生徒が所属するクラブ単位で二次元布置図を作成した。二次元布置図を作成したクラブは,回答した部員が5名以上所属しているものとした。運動系クラブが10,文化系クラブ6,生徒計268名,平均所属人数は16.75(SD 7.15)であった。
結果と考察
 各クラブの布置の特徴を明らかにするため,クラブごとに「精神的充足」「社会的適応力」の合計段階点の平均をグラフに示した。文化系クラブの方が,両側面ともに低い傾向にあると考えられる。そこでクラブを,運動系か文化系か,部活動の主な内容が集団か個人かの2次元で分類して,2つの合計段階点を1要因分散分析により比較した(表1)。その結果,精神的充足については,主効果が有意となり(df=3,264),下位検定から,「文化系・個人」のクラブが,他の3タイプに比べて有意に低いことが示された。一方,社会的適応力については,6特性ごとの段階点を対象として同様の分析を行った(表2)。その結果,「自分の気持ちを伝える力」「問題を解決する力」において,群の主効果が有意となり,下位検定の結果,精神的充足と同様に,「文化系・個人」のクラブが,他の3タイプに比べて有意に低いことが示された。
 運動系クラブは個人競技・集団競技ともに精神的充足・社会的適応力の得点分布に大きな違いがないこと,さらに文化系の集団活動を行うクラブも同様の傾向にあること,反対に,文化系で個人活動を主としたクラブに所属する生徒のみ,2側面とも低い傾向にあることが示された。クラブの内容と心の状態との間に関連する場合があるといえる。