日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PD(01-64)

ポスター発表 PD(01-64)

2016年10月9日(日) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PD25] 子ども意思決定をふりかえるツール試作

食事場面のやりとりを記録し分析するアプリの検討

北原靖子1, 蓮見元子2, 川嶋健太郎3 (1.川村学園女子大学, 2.川村学園女子大学, 3.東海学院大学)

キーワード:意思決定支援, 食事場面, 記録分析ツール

問   題
 従来の日本的しつけでは「子どもの意思決定能力育成」は重視されなかったが,今日,保育者や育児経験豊かな保護者であれば,子どもの「自分で・上手に決める」力が育つように意識して,日常場面でもさまざま工夫している(川嶋他,2016)。その働きかけはやりとりの中で展開され,大人の側も子どもから得た手応えを通して支援のしかた(種類やタイミング)を学習してゆく。しかし,ふだんは問題がなさそうなら「放任」,問題が生じれば「命令」で終わらせがちな普通の大人たちが,忙しい日常で意思決定支援への意識を高く保って子どもとのやりとりを模索し,そこから自ら学んでゆくのは容易ではない(北原他,2016)。
 そこで本研究では子どもの意思決定育成に役立つと共に育児支援になり得るツール開発を意図して,「食事のやりとり」を取り上げた。食事は生態学的妥当性が高く,栄養摂取・社会的スキーマ獲得・交流を巡って相互交渉が行われる重要な場面である(外山・無藤,1990)。育児不安やストレスとも関わっており,当事者は近視眼的評価に陥りやすいので,「意思決定を育む」という長期展望下でやりとりをふりかえることは,支援的に機能すると期待できる。今回は1モニターによる予備検討を通し,ふりかえりアプリの可能性を探った。
方   法
 協力者:A児(3歳女)の母B氏。心理支援の有資格者で,統計ソフトSPSS操作ができた。事前に記入してもらったPSI(Parenting Stress Index)はP<Cで,Aの食が細いのを心配していた。
 手続き:当日の食事場面で自分が行った意思決定支援やりとりを統計処理ソフトSPSSデータファイル上に記録する(図1-1)と共に,記録結果(図1-2)各種グラフから気になるものを実際に試し,ふりかえりとして参照してもらった(2016.4月から1か月,延べ58回分)。
 評定選択肢:今回は極力少なくして,②支援種類2(出す・受ける),③タイミング3(食事前・途中・おわり),④手応え2(あり・他)とした。
結果と考察
 事後面接によればB氏はふりかえりによって,朝昼晩の意味づけが意識化でき(B),頑張って提案しても感触はよくないとわかり(D),新しい価値(B氏はたのしさ)を認識する(E)など,複数気づきがあったと評価した。一方,支援種類2では抽象的すぎ評定しにくいこと,一連のやりとりの中で局所的「手応え」と全体評価(E)との関連性が曖昧なことが指摘された。これらの課題を修正すれば,意思決定支援を切り口に育児カウンセリングや親業訓練ツールとして利用が期待される。