日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

2016年10月10日(月) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PG21] 大学生は意欲が高まらない時どうしているか

場面を限定しない動機づけ調整方略の自由記述の検討

伊田勝憲 (静岡大学)

キーワード:動機づけ, 大学生

問題と目的
 梅本・田中(2012)は大学生を対象に質問紙調査を行い,予備調査の自由記述で得られた内容をもとにして,計7つの下位尺度から構成される「動機づけ調整方略尺度」を開発した。自由記述を求める際には,授業内容と課題の難しさや退屈さによってやる気が出ないという4つの場面が想定されている。一方で,倉住(2008)が中学生を対象に「学習しない理由」を尋ねた調査では「勉強よりも楽しいことがあるから」「周りと仲良くするためには勉強しない方がよいから」など,学習以外の要因からの影響も見られる。
 本研究では,授業内容や課題の難しさと言った条件を提示せず,意欲が高まらないという一般的状況を想定し,場面を限定しない動機づけ調整方略について自由記述での回答を求めることで,どのような対処行動が記述されるのか,その内容にこれまでの先行研究とは異なる方略が見られるのか,探索的に検討する。
方   法
 (1)調査時期:2016年1月。(2)調査対象:4年制国立大学の教育学部4年生85(男性44,女性41)名。(3)調査内容:汎用的自己動機づけ方略……自由記述(箇条書き)により,最大3つまで回答を求めた。教示文:「大学での学習・研究,サークル活動やアルバイト等まで含めた日常の学生生活全般の中で,なかなかモチベーションが高まらないような場面に直面した時,どのような対処を試みていますか。自分にとっての『やる気スイッチ』を思い浮かべて,モチベーションを回復・向上させる行動や工夫を最大3つまで箇条書きで教えてください」。なお,授業への課題価値測定尺度,有機的統合理論に基づく動機づけ項目,アイデンティティ発達尺度も質問紙に含まれたが,今回は分析に使用していない。また,回答は任意で,授業の成績とは関係がないこと,個人情報の保護に配慮すること等の説明を行ってから実施した。
結果と考察
 (1) 回答数:計162の記述が得られた。各回答者の記述数は,1つが16名,2つが16名,3つが38名,当該回答欄無記入が15名であり,1人あたりの記入数平均は1.91(SD=1.16)であった。(2) 記述内容の分類:内容の類似性に基づいて探索的にカテゴリーを生成した。まず,記述人数が概ね10〜20名程度となることを目安として,計10の小分類を生成した。なお,同一回答者が同じ小分類に含まれる内容を複数記述していた場合は1名としてカウントした。その上で,大分類として,当該課題から一時的に離れて意欲の回復を図る(待つ)ような対処を「休息」,当該課題に取り組むことの意味を考えたり,とりあえず課題に取り組み続けたりするような対処を「課題接近」,当該課題以外の行動を選択するような対処を「気分転換」としてまとめた。以下に,大分類・小分類ごとに記述内容と人数を整理して示す(TABLE)。
 これまでの動機づけ調整方略の研究で主に取り上げられてきたのは大分類「課題接近」に含まれる内容で,「意味づけ・省察」は梅本らの研究における<興味高揚方略>や<価値づけ方略>に,「時間的展望・計画」は<達成想像方略>などに重なると考えられる。一方で「行動開始・継続」は,やる気が低下していても行動を止めずに,とにかく手を動かす,こなしているうちに気分が変わるのを待つなど,やる気に関係なく行動するという信念が背景にあるものと推測され,一部は梅本らの<認知変容方略>と重なるかもしれない。
 一方で,大分類「休息」「気分転換」は,梅本らの<環境調整方略>や<協同方略>に近い内容もあるが,授業や課題など学習に限定した場面設定では記述されにくい内容が多かった。生活時間全体を見通す中で,健康や心理社会的なテーマ,さらには進路・キャリアとの関係などから,ある特定の課題をどのように位置づけ,その動機づけを調整しているのかに着目した分析が今後の課題である。特に,これらの対処行動が果たして動機づけ調整方略として機能しているのか,機能する条件は何かといった検討も必要である。
※本研究はJSPS科研費25380865の助成を受けた。