日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PG(01-64)

ポスター発表 PG(01-64)

2016年10月10日(月) 10:00 〜 12:00 展示場 (1階展示場)

[PG42] 探究的な学習に対する動機づけ・方略の関連

大学生・大学院生に対する調査から

伊藤寛之 (東京大学大学院)

キーワード:探究的な学習, 学習動機, 学習方略

問題と目的
 探究的な学習は,「1.課題の設定,2.情報の収集,3.整理・分析,4.まとめ・表現」といった「問題解決的な活動が発展的に繰り返されていく」活動であると定義される(文部科学省,2008)。大学生・大学院生においては,テーマが自由なレポートや論文の執筆が探究的な学習と捉えられるだろう。
 探究的な学習においては,学習スタイルの違いから,習得をめざす通常の教科学習とは異なる教授法・学習法が必要となり,つまずきを抱える学生も多い。しかしながら,探究的な学習における適切な教授法・学習法については,実証的にはあまり検討されていない。
 そこで,探究的な学習において,どのような動機づけや方略が重要であるのかについて示唆を得るため,本研究では,大学生・大学院生の探究的な学習について,動機づけと方略の尺度を構成し,その間の関連を検討することを目的とする。
方   法
 予備調査 大学生・大学院生53名(男性31名,女性22名)に対し,「自分でテーマを設定し,調べまとめて,表現する」学習において,探究動機(何を目的に行うか),探究方略(どのような工夫をするか)などを,自由に記述させた。
 本調査 大学生・大学院生270名(男性189名,女性78名)を対象に,予備調査をもとにした質問紙調査を実施した。探究動機(5件法,34項目),探究方略(5件法,28項目)などを尋ねた(計120項目程)。
結   果
 探究動機 探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行い,4因子解を採用した。それぞれの因子を,内容が面白い・知識を身につけるためといった「内容志向(α=.89)」,研究の仕方・情報のまとめ方を身につけるためといった「方法志向 (α=.88)」,社会に役立てる・新しい知識を創造するためといった「貢献志向(α=.81)」,単位や成績のためといった「成績志向(α=.86)」と命名した。
 探究方略 探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行い,6因子解を採用した。それぞれの因子を,友達と内容について意見交換するといった「他者活用方略(α=.71)」,図や表を活用してまとめるといった「図表活用方略(α=.81)」,テーマに関連する学問分野の概説書を読むといった「文献方略(α=.70)」,学習が終わるまでの見通しを立てておくといった「時間管理方略(α=.76)」,他者の視点を意識してわかりやすくまとめるといった「他者意識方略(α=.67)」,目的意識や目標を忘れずに取り組むといった「目標意識方略(α=.79)」と命名した。
 探究動機と探究方略の関連 それぞれの探究方略を,4つの探究動機で予測する重回帰分析を行った。標準化偏回帰係数,自由度調整済み決定係数と,決定係数の95%信頼区間をTable 1に示す。
 他者活用方略・文献方略に対しては,内容志向が相対的に大きい影響を与えていた(β=.28, .29)。時間管理方略・目標意識方略に対しては,貢献志向が相対的に大きい影響を与えていた(β=.42, .38)。
考   察
 学習動機の二要因モデル(市川,1995)の枠組みに照らすと,内容関与型動機にあたる内容志向・方法志向・貢献志向が探究方略に正の影響を与えることが示唆された。とりわけ,自己調整が重要となる探究的な学習において,貢献志向は,計画を立てたり目標を意識したりという方略に正の影響を与えることから,重要な動機づけであると考えられる。
 探究の各段階(テーマ設定,発表など)の方略,および,学習成果にも焦点を当てた検討が今後の課題である。